夏の夜
夜だけどまだべたつくような暑い空気が肌をなでる。静雄の家のベランダから花火を見ているので少し火薬くさい。パンっ!という音と共に上がる花火。片手にはビールでテーブルにはスイカと蚊取り線香。夏って感じだ。
『綺麗ー。』
「たまやー。」
『静雄がたまやー、って言うの可愛いね。あははっ。』
「そうか?普通だろ。かぎやって言えよ。」
『言いませーん。静雄の聞いてる方うがいい。前髪あげてるから尚可愛い。』
「名前がやったんだろ。やっぱり外行くか?」
『えー、いいよ。』
静雄は甚平、私は浴衣をちゃんと着ているが祭りにはいっていない。浴衣で歩くのも面倒だし知り合いに会ったら面倒だ。だったらここでこうしてゆっくりつまみも摘まみながらビールを飲みたい。ほろ酔い気分で静雄といちゃいちゃしたい。
『人混みだと静雄が暴れた時ヤバいし。』
「あー、悪ィ。」
『いやいや。こうやって2人でのんびりしたかったんだよね。邪魔はいないしね。』
「そっか。ま、ビールも旨いしな。」
『そうそう。スイカも美味しいし。こんな中打ち上げ花火を静雄と見れるだけで私は幸せだよ。』
「小さな幸せだな。」
くつくつ、と笑う静雄にまた幸せを感じスイカをかじる。小さな幸せ、だろうか。町を歩けば臨也やサイモン。色々なものに巻き込まれ静かに過ごせないのだからこういう時が一番うれしい。
「浴衣似合ってる。」
『ふふっ。ありがとう。静雄はいつも格好いいよ。今日はもっと素敵だけど。』
「そうかよ。」
『顔が赤いぞー。』
「暑いんだよっ。いいから花火を見ろよ、おらっ。」
『あたっ!!静雄!無理やり向かせないで痛い!』
「わ!!名前悪い!!大丈夫か!!」
『あぁ、うん。案外大丈夫。首動かないけど、あははっ。』
「笑い事か!?寝違えみたいになってるけど。これ新羅に電話するか?いや、俺が悪いんだけど、あ。」
『な、なに!?今前しか見えないんだけど!』
「ここ、蚊に刺されてんぞ。」
首もとをツー、とやられピクリとしてしまう。あ、今静雄が絶対笑ってる。横を向こうとしても首が痛くて無理やり向かされた前しか見えない。花火は綺麗だけどくつくつ、と帆クク笑っている静雄が気になる。
「キスマークみたいだぜ。」
『全然違うでしょ!!こ、こら!!し、静雄!!は、花火を見ろ!腰を触るな!』
「うるさい。こっち向け、キス出来ない。」
『向けないっての!誰のせいで首が前向いたと思ってんの!痛いんだってば!』
「あぁ、そうだった。ま、首が動かなくてもいいか。」
『よくない!!浴衣をはぐな!!ここベランダ!!』
「じゃあ中はいんぞー。」
『ふざけんなぁあ!!』
花火の音で私たちの声はきっと誰にも聞こえない。ビールもスイカももうぬるくて美味しくないだろうな。いつも通り俺の下で啼いてればいい、という殺し文句と熱いキス。恥ずかしくて顔をそむけたくても痛くて逃げれない。静雄の体温が暑い熱い。そんな夏の夜。
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