私に求めるメリット
程よくあたる日差しがポカポカしてて暖かい。高級なソファは弾力が丁度よくて眠気を誘う。カタカタとパソコンを叩く音が部屋に響く。なにを打ち込んでいるかは知らないが彼は忙しいそうだ。
私は鏡夜の部屋で本を借りて読んでいる。正確には読んでいた。鏡夜の部屋にある本は全てが難しくてよくわからない。なので結構前から読書を中断し、本を読むフリをしてコッソリ鏡夜を盗み見している。
『(だって内容が頭に入ってこないし、鏡夜を見ている方がいいしね)』
スッとした目にサラリとした黒髪。眼鏡が似合いパソコンを打つ手はスラリと長い。一言でいうと絵になる。背筋は伸びていて姿勢がよく座っているだけで絵になる。たまに飲み物を飲むとき動くのどぼとけになんだかドキリとする。
『(格好いいな。文句なしの男前。まぁ、性格に難ありだけども)』
鏡夜と出会ったのは私が中学一年生の時。私は鳳家に嫁いできた。要は鏡夜の婚約者なのだ。親に紹介されニッコリ笑った鏡夜は優しそうだったが裏がありそうだった。私はその偽物の顔をはがしたかった。だから言ってやったのだ。
『私は鏡夜の本当の顔が見てみたい。本当の顔も愛せる自信があるよ。』
その時の彼の顔は忘れられない。一度ポカンとし、ニヤリと不敵に笑った。あぁ、これが本当の顔か。それと同時なこっちの方が格好いいな、と思った。私しか知らない顔。ホスト部でへらへらしている営業向けの顔なんてものよりこっちの方がいい。
「何をニヤニヤしている。さっきから人の顔をジロジロみて。」
『え、気づいてたの。じゃあ声かけてよ。私が怪しい子みたいじゃない。』
「名前はいつでも怪しいだろ。というか変だ。人がせっかく貸してやった本をどこまで読めるかなと思ってね。」
『10ページで脱落ですよ。』
「それはそれは。」
『馬鹿にしてる?』
「ちっとも。」
『ふーん。でも、鏡夜も成長したよね。』
「いきなりなんだ。名前の話に突拍子がないのは環に似ているな。」
『げ、それ馬鹿にしてるでしょ。』
「わかったか。」
『うわー、最低だー。あ、そういえば最近3人で旅行行ってないね。』
環が転入してきた時はお寺周りや観光やらでよく旅行に行った。庶民旅行という名目で鏡夜は嫌がっていたけど私は楽しかった。鏡夜は環に会って変わった。本当に仲がよい友達なんていなかったから、本当の鏡夜を知ってくれる友達ができてよかったと思う。でもその反面寂しい。私だけの鏡夜だったのに。
「そうか?俺が変わったのは名前に会ってからだぞ?」
『…さすがホスト部。』
「それはお誉めにあずかり光栄です。」
さりげなく笑う彼を愛しいと思う。こんな顔を見れるのは私だけだ。こういう時鏡夜の婚約者でよかったと思う。でもそれは私が婚約者だから?婚約者だから笑うのだろうか。これもすべて彼の計算なのだろうか。そうだとしたら私はどうするんだろう。
「どうした。」
『どうした様に見えるの。』
「不機嫌になったように見えるな。」
『鏡夜がパソコンばっかいじって私に構ってくれないから不機嫌って言ったら?』
「それなりに興味深い感想だ。」
『(このインテリ眼鏡が。なんて怖くて言えないけど、)さっきから何してんの?』
「あぁ、ホスト部の新商品の開発だ。どれくらいメリットがあるかと思ってね。」
『メリットがそんなに大事?』
「そりゃ、利益は大事だろ。企業においてもメリットを求めなきゃやっていけない。」
『(私にもメリットも求めてる?)』
そんな風に聞きたくなるのは何故だろう?婚約者なのだから親同士のメリットのために婚約するのが普通なのだ。お互いメリットがあるから結婚する。なのに私はどんどん貪欲になっていく。それでも私は、
「どうした?」
『鏡夜からの愛が感じられない。』
「…。」
『…。』
「ククッ。」
『うわぁ、この人爆笑しやがった。鏡夜がこんなに笑うのは珍しい。けどこっちは真剣に悩んでるんだけど。』
「あはは、それは悪い。」
『せめて笑うのやめてよ。私が良いところのお嬢様じゃなかったら結婚してないんでしょ?』
「まぁ、婚約者だからな。出会ってもいないだろうし結婚は無理じゃないか。」
『…私はメリットなしでも鏡夜の事愛してる。鏡夜は違うみたいだけど。』
「誰がそんな事言った。」
言ってないかも知れないけど言ったようなものだ。常に利益を求めて顔を作る鏡夜。育て方や上に兄がいるなど、鏡夜は鏡夜で仕方ない。だけど私はこれが嘘で騙してようが愛がないのだろうと好きだ。きっと騙されたふりを永遠に続けるだろう。
『騙された女でいいから傍にいたいって思う私を馬鹿だと思うのが貴方だわ。』
「君は俺の事をどう見ているんだ。一応これでも人の子だぞ。メリットなしでも名前の事は好きだ。」
『…は?』
「たかがメリットだけで俺が結婚すると思うか?結婚なんて一生の事だろ。」
『まぁ、鏡夜ならメリットのためならなんでもしそう。』
「だから俺を冷血人間にでも思っているのか、お前は。名前だから引き受けたんだ。お前じゃなかったら断ったさ。」
『そうなの?』
「一生の相手ぐらいメリットなしで選ぶさ。」
『…鏡夜好き。』
「あぁ、知ってる。」
優しくキスをする。なぜか泣きそうだ。鏡夜にここまで言わせたのだから私からもなにかあげなければいけない。彼がメリットになる事。一生一緒にいてあげる、ともう一度キスをする。だって好きで傍に居るってある意味メリットだもの。興味深い感想だ、と彼は私を引きよせた。
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