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八千代さんが杏子さんのノロケを佐藤さんに話すのを前は暗い気持で見ていた。それとなんとも言えない視線を向けてくる相馬さんへの苛立ちでいっぱいだった。でも今は何とも思わない。だって今は私を好きだと言ってくれている。へたれでわかりづらい所もあるけど彼は優しいので気を使って不安にならないようにしてくれる。大抵むせるけど嬉しいのだ。でも今は寧ろ気恥ずかしい。

「佐藤くん!いつも私の話ばかりだしこれからは名前ちゃんののろけ話とか私にしてね。」

「げほっ!!んなことするわけねぇだろ…。」

『そうですよ、八千代さん。何言ってんですか。というか葵ちゃんはなんでそんな隅っこでブルー入ってるの?』

「!聞いてくれます名前さん。酷いんですよ。佐藤さんったら私が名前さんの所に行こうとしたら必要以上にくっつくな、とか言うんです!葵ショックです。」

「あらら、佐藤君余裕ないね。女の子にも嫉妬ってどうなの?しかもこんな年下に。年上の余裕が感じられないよ。」

「俺はお前が一番不安だけどな。」

「えー、俺ってそんなに信用ないのかな。」

「あると思ってたのかお前。」

そりゃ、冗談か本気かよくわからないけど人に告白したり意味分からない事ばっかしてる人だ。信用ある方がどうなの。佐藤さんの言うとおりあると思ってたのかなこの人。葵ちゃんを慰め手を動かす。やる事もなくなりなにをしようか、考える。そういえばもうすぐここともおさらばな訳だし、皆に挨拶にでも行ってこようかな。

『ぽぷらー、小鳥遊くん。…ぽぷらはなにをやってんの。ジャンプしたって身長は伸びないんだからね。いい加減あきらめなよ。』

「酷い!身長を笑うものは身長に泣くんだよ!それにただジャンプしてるんじゃなくてあのパーティー道具をとりたいんだよ。」

『そこに小鳥遊君がいるんだから、ってなんだかうっとりしてるな。』

「ジャンプしてる先輩可愛い!届かない先輩も名前先輩にからかわれて怒る先輩も可愛い!ああ、待ち受けに、寧ろストラップにしたい!」

「私そこまで小さくないよ!?」

『(私がいなくなって大丈夫かなこの店)ちゃんとした人が佐藤さんしかいなくなる。可哀想に…。はい、どうぞ。それでなにするの?イベントなんてなかったよね。』

「うん!これはね名前ちゃんと佐藤さんの「先輩!それ言っちゃ駄目ですよ!」そ、そっか。」

「種島さんー、名前ちゃんの送別会のケーキなんだけど相馬さんが皆の意見もうわっ!名前ちゃん、いいい今のは!」

『…。』

「小鳥遊さん達ずるいです!葵も送別会&カップル成立おめでとうパーティーの準備一緒にやりたいです!1人は寂しいです。構ってください。」

「馬鹿山田!」

『…それはどうも。でも皆もうちょっと隠そうか。本当に大丈夫かな。』

ばれちゃったね、なんて笑ってるぽぷらたちが可愛かったのでよしとしよう。いいのに、といえばお世話になったから、なんていい葵ちゃんはやめないでー、と腰にひっつく。可愛いが佐藤さんに殴られて連行されていった。挨拶を済まして休憩室に行けば佐藤さんがいた。さっきのは休憩に入るとこだったのか。話は聞こえてたのか少し照れていた。ああ、私の彼氏可愛い!

「今から休憩か?一緒にどうだ。」

『はい。はー、もうここも学校も卒業なんですね。なんか早いなぁ。』

「学校はまだあんだろ。まぁ、あっという間だろうな。そうか…、名前もやめんのか。…会いに行っていいか?」

『本当ですか!!うちわかります?あ、でも休日とか遊びましょう。あ、でもバイトとか忙しいんですかね。後その、えっとー。名前で呼んでいいで、そんなにむせるとは思わなかったです。』

「…いや、ちょっと。別にかまわないけど、」

『あ、照れてるんですかー。痛い痛い!彼女に乱暴はよくないです!』

「お前な、」

『いいじゃないですか。私はずっと鈍くて奥手な潤さんを待ってたんです。これからは堂々としてやります。』

まぁ、俺が悪いか、となんだか落ち込んでしまったので笑っていたら口の中に煙草の味が広がった。なんだろう、と考えている間にもう一度キスされてしまった。びっくりしすぎて声が出ない。へたれなくせにこんな事はできるのか、と思えば照れているのか赤い顔して手で顔を隠してる。うわぁ、なんか本当に可愛い人だ。

「笑うな。」

『だって。無理しなくていいですよ。私からキスしますから。』

「ごほっ!お前、女子がそういう事いうなよ…。」

『えー、だって。今更佐藤さんに焦らされるのになんとも思いませんけど。』

「根に持つなよ。これからは…まぁ、甘やかしてやるよ。」

『じゃあ、お願いがあるんですけど勉強見てくれません?それで受かったら一緒に学校に行ってください。』

「は、」

「え、佐藤君名前ちゃんが同じ学校受けるって知らなかったの?君たちって本当なんというか。名前ちゃんもさっき知ったんだって。佐藤君の学校。」

『だって振られた時を考えたらわざわざ一緒の学校なんて選ばないだろ。でもまぁ、今となっては終わりよければすべてよし?同じ学校志望してたなんて運命ですよねー。』

「はは、女子高生って強いねー。」

「ってかお前はいつからいたんだ相馬。」

「…あ、休憩の時間終わった。仕事に戻らなくっちゃ。」

そそくさと逃げる相馬さんと残された私達はなんだか笑い合ってしまった。きっとこれから片想いより辛い事があると思うけどそれ以上甘い事だってあるんだ。だからずっと愛していてね。机を乗り越えてキスをする。またむせる佐藤さんに今後が思いやられる。私が強く引っ張っていけばいいか。なんたって恋する乙女は強いのだから。


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