毒林檎の1口

ふわりと風が舞うと花と木々の香りが私の間を駆け抜ける。自然と富、美しいこの国はやはり王子がいいからだろうかと自分の使える第二王子を思い出し少し笑った。ゼンはもうすぐ執務が終わるはずだしミツヒデと木々も稽古が終わる。白雪も薬草園からもうすぐ帰ってくるはずだ。

『(久しぶりに皆でお茶会なんてどうかしら…。紅茶にスコーン。新しいジャムもある。とれたての林檎をメインに今からお菓子を作って、)』

「名前嬢ー。」

『やっぱりアップルパイ?でもそれだと時間かかるし。ジャムを作るとかぶるしんー。あの紅茶にあうのは、』

「おーい、聞いてる名前嬢。」

『わっ、オビ。ごめん全然気付かなかった。また木に登って怒られない?逆さずりで顔出して頭に血がのぼっちゃうから降りてきて。』

「なれてるから大丈夫だよ。ここの人たちって集中すると人の声聞こえない人多いよね。リュウ坊とかさ。考え事?」

『そう、あ。オビこの後予定あいてるかしら?』

「ん?」

さっき庭でとりたての赤い林檎をとってきたこと、皆がもうすぐ用事が終わること、美味しい紅茶とジャムを買ったので林檎もあるしお茶会をしたい事。でも肝心の林檎で何を作るか悩んでることを話す。オビはふんふん、と頷きながら聞いてくれる。それだけで彼に会えてよかったと思う。この掴みどころのない猫のような人に会えるとなんだかラッキーな気がする。

「前に聞いたんだけどお嬢さんがラジ王子に求婚されたときお嬢さん宛ての毒林檎を主が食べてって話を聞いたんだけど、」

『嘘!?じゃあ林檎のチョイスはまずかったかなぁ。白雪の髪みたいに綺麗な林檎がとれて皆で喜んだのに…。』

「…誰ととってたの?」

『ん?』

「だって収穫して喜んだんでしょ。林檎とるのに木にも登るし、」

『ああ、庭師さんとあと休憩中の兵士さんも声かけてくれて。一回落ちそうになって抱きとめてくれたの。いやぁ、危なかったな。オビは木の上でもひょいひょい登るから羨ましいな、。今度教えてっ、…オビ?』

腕をとられ木に縫いつけられる。そこまで強い力ではなかったけど逃げられなかった。カゴごと落ちた林檎がバラバラと転がった。オビを見れば気まずそうにすぐに離れて林檎を拾い始めた。一体なんだったのだろうか。彼の考えている事はよくわからないがこんな事されたのは初めてで不安になる。なにか怒らせただろうか。

『…あの、オビ?』

「ごめん名前嬢。ただ今度からは木に登るときは俺を呼んでくれない?木の上はご存じの通り得意だし名前嬢の事守れないと不安だ。そうそう木に登るなんてないと思うけど俺を呼んでよ。」

『…あ、ありがとう。木には結構登るの。林檎も蜜柑も収穫自分でしたいから。今まで何回か落ちたこともあってゼンとかに怒られてたんだけどオビがいてくれるなら平気ね!』

「うん。林檎落としてごめん。それに結構時間食っちゃったかな。お茶会間に合う?というか俺が名前嬢おんぶして走るからなんとしても間に合わせるから。」

『そんなキリッとして言わなくても。大丈夫、痛んでないしそれにそのまま食べてもおいしいから今日はこのままだすわ。紅茶の準備するから切ってくれる?』

「なんなりと。」

オビの笑顔を見たらなんだか急がないでここにいたい気がした。まわりがやけにスローモーション。オビの周りがキラキラしてる。試食して食べた林檎に毒でもあって今頃まわってきたのだろうか。私の手にあった林檎をオビがかぶりついてうまい、と笑った。ああ、それだけで胸が痛いなんて毒林檎のせいだわ。



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