08
ギルカタールに来て早一週間。取引額はまだまだだがカジノで多少は稼いでいる。取引1日前にでもまたカジノに行けばいいかなぁ、なんて考えている。それより昨日は疲れた。まさかスチュワートの父親と話すとは思っていなかったし、姉さんが料理をするのも(爆発するのも)予想外だ。

『ロベルト、優しかったなぁ…。つか泣き顔見られた。』

あの時ロベルトがいなかったら私はどうしていただろう。ロベルトに助けられた。これは紛れもない事実で、ロベルトにちょっとときめいてるのも事実だったりする。婚約者になるかもしれないんだからこういうイベントはいいのかもしれないが恥ずかしい。

『あー、はずっ。どっか行こう…。』

城の中はやっぱり落ち着かない。廊下に出るとスチュワートとタイロンと姉さんが庭に居て上から見る。3人が本当に仲良くなるなんて驚きだ。でもやはり言い争っている。やっぱり3人は元のように仲良くはなれないのかもしれない。

『…私がいけないのかな。』

私が国を出なければ。あの時3人の傍にいてあげればなにか変わっていただろうか。今更そんなこと考えても仕方ないのだけれど。ああ、癒やしが欲しい、疲れた。嫌な方向に考えるのはやめよう。 さて、癒やしを求めにLet's go!!ってなわけで。

『メイズー、遊びに来たよー。』

「うわぁ!プリンセス!!」

『あぁ、癒される…。』

「プリンセス!!」

『なに、メイズ。いやー、ごめんねぇ。なかなか来れなくて。こっちはこっちで色々とばたばたとしていて。』

「いえ、大丈夫ですけども。いや、じゃなくてっ。あの、」

「メイズはいるぞ、って姫さん!?」

『あ、こんにちは。シャーク。』

「あぁ、じゃなくてだな!なんでメイズに抱きついてんだよ!メイズが困ってるだろ。」

『あ、それはね実は私たち先日から付き合う事になってー。それで今日はシャークに挨拶を。どっきりサプライズよ。』

「「えぇ!?」」

「本当なのか!?メイズ!」

「違いますよ、兄さん!!」

とりあえずメイズを離して隣のイスに座る。2人の慌てっぷりときたら。なんだかすっきりして笑えば姫さん、とあきれた顔したシャークがこっちをみた。だってなんだかむしゃくしゃしてたんだもの。ここは落ち着くなぁ。

『名前でいいっていったじゃん。からかってごめん。メイズが可愛くて。』

「あー…、ともかくからかうなよ。」

「可愛くありません。プリンセスの方が可愛いです。」

『可愛いって最高の誉め言葉なのに。でもありがとう、メイズ。』

「で、どうした。同行の誘いか?」

『同行の誘い以外で来ちゃいけないわけ。あ、忙しかった?ごめん、出直すわ。』

「いや、それは大丈夫だ。あんたならいつ来たって構わねえよ。なんだか疲れてねえか?診察してやろうか。」

『そう、ありがとう。体はいたって健康だから大丈夫。そうだなー、たまには外にでるのもいいかもね。私こっちに来てから一回も国から外でてないし。そろそろ取引の事も考えたほうがいいよね。最終手段はあるけど。』

「最終手段?」

『カジノ。』

「聞かなかった事にしてやるよ。それで姫、じゃなくて名前。あんた、戦えんのか?俺は同行するのは構わねえけど。」

『いや、まったく。』

「プリンセス。それじゃあ砂漠に行っても暑いだけですよ。この国に慣れていないのに危険です。いくら兄さんと一緒だからと言っても砂漠を歩くのにも慣れていないのに。熱中症にでもなったら大変ですよ。」

『まぁ、そうなんだけどさ。いいじゃん。モンスター見てみたいし。よし、いってみよう!』

「はぁ!?」

『じゃあね、メイズ!なるべく怪我しないように気をつけるから。』

「はい。兄さんがいるなら安心です。でも気をつけてくださいね。待ってます、プリンセス。」

可愛いなぁ、とでれでれする私に不審な顔をしているシャーク。うっわ、外は暑い。白衣を脱いだシャークが私の隣を歩く。今日はやけに行動派だな、とかぶつぶつ言っている。色々心の中で思う所はあるのだろうけど黙って付いてきてくれるのはありがたい。

「それでまじあんた何しに来たんだよ。」

『癒やしをもらいに。ほら、私癒やし求め隊の隊長だから。』

「なんだよその隊は。」

『なに言ってるの。シャークはレッドでしょ。』

「レッド!?ってか普通レッドが隊長じゃないのか?」

『んなに隊長の座が欲しけりゃあげるよ。』

「いらねぇよ。」

『あははー、断られたー。』

「…なんかあったのか?別に無理して笑おうとしなくたっていいんだぞ。俺は医者だしカウンセリングとかあんま得意分野じゃねぇけど話くらいは聞けるぞ。今なら誰も聞いてねえし。」
 
なにもないよ、と笑顔で返したが真顔でその場に止まってしまったシャークが私に近づく。頭を撫でるその手つきにふいに泣きそうになった。私はこんなにも弱かっただろうか。砂漠の真ん中なら確かに私を敵視している奴もいない。今なら少し位愚痴を言ってもいいのだろうか。

『シャーク、あのね…、ってうわぁ!サソリきたぁああっ。』

「よし名前、戦え。」

『えぇ!?無着言わないでよ。私一般ピーポー。戦闘とは無縁なんです。最初にそう言ったよね。そのためにシャーク連れてきたんだってば。』

「だからなのに砂漠にこようとすんなよ!!ほら、戦いたかったんだろ。モンスター見たかったんだろ。つかモンスターなんてここに来る時も見ただろうに。」

『来る時はマジックアイテムで来たからじっくり見たことなくて。いやほんと、魔法アイテムって便利だよね。』

「知らねえよ。とりあえずほら、ナイフ。」

『オペでも始める気?あのサソリ手術が必要なの?』

「知らねえよ!このナイフで戦えって事だよ!!俺らはあんまり手伝いはいけねえんだから俺が1人で倒すなんて論外だろ。まぁ、砂漠のモンスターは弱いし俺も加勢するからいってみろ。名前ならいけるから、多分。運が強いしな、お前は。」

『多分って!んなあやふやな勘でいたいけな少女を戦かわせる気ですか!貴方は!!』

「自分でいたいけ言うなよ!来たいって言ったのお前だろうが!」

そうだけどもいざとなると…。いやいや、落ち着け私。昔ギルカタールに住んでいた事を思い出すんだ!ギルカタールから脱走しようとしてライルに捕まって腹いせにメガネ割ったり。チェイカに怒られて腹いせにアルメダにチェイカが好きって言ってたよ、とデマを流したり。…私よく生きてたな。ってかロクな事してねぇ。

『…なんかいけそうな気がする。私なんか無敵な気がする。』
 
「だろ?」

『同意が軽い!つかサソリが放置されてイライラしているっ。よっし、私ならやれる。ストレス発散だと思ってやればなんとかなる。つかそれが目的だし、』

「そうだ。最近ムカついた事を思い出すんだ。」

『ムカついた事…。なんで昨日あんな奴と喋ったんだろうか。ってかそもそもなにしに来たんだあいつ。嫌みか?嫌みをいいにきたのかこのヤロー。スチュワートの父親だからって容赦しないぞこのヤロー。』

「なんだかぶつぶつ言ってて怖いんだが…。」

『ちょっと偉い地位だからって調子のってんじゃないぞコラァア!!シンク家の血、途絶えさせてやんぞこんちクショー!!てめぇなんかはげろじじい!』

「名前!?なんかキャラ壊れてるぞ!おい、どこまで行くんだ!!なんか次々と倒してるじゃねぇか…。俺必要なくね?ってオアシスの方はいくんじゃねぇぞ!」

-

『はぁはぁ…。』

「大丈夫か?名前。よく倒したよなぁ。まぁ、HPあと1あたりだろうけど。」

『1!?私死ぬじゃん!ちょっと、やばくね!?ちょっと回復アイテム頂戴よ。』

「使いまくっただろうが、もうねえよ。静止も聞かないでオアシスまで行って瀕死まじかになりやがって。元々のライフがすくねえんだから無茶すんなよ。もうすぐ戻れるし我慢しろ。まぁ、素人のあんたがモンスターあれだけ倒せばなぁ。ってか生きてる方が奇跡だから。でもスッキリした顔してるぜ。」

『…ありがとう。こっそりモンスターに攻撃してくれてたでしょ。回復アイテムもくれたし。』

「気づいてたのか。」

『当たり前。いや、私がモンスターを倒せるわけないじゃんか。火事場の馬鹿力はストレス爆発とともに出したけどさすがに1人じゃ無理だよ。ふぅ、疲れた。』

「ほら、怪我見てやるからさっさと帰るぞ。この水も飲め。わからないうちに脱水症状になってる場合もあるんだから。それにメイズも待ってるしな。」

『ありがとう。帰ったらまたメイズで癒されていい?抱きしめてもいい?』

「それは駄目だ。」

『えー、ケチ。』

きっとつらいのは私だけじゃない。姉さんだってシャークだって私の知らない過去があって乗り越えてる。負けられない。あんな奴らに負けてなどいられないのだ。敵が多いななど最初から分かっていて戻ってきた。私はここに戦うために来たのだから。

『…鍛えようかな。』

「暗殺術でも覚えるのか?」

『やっぱり強くなきゃかな、って。色々負けたくないし。』

「名前は強くならなくても大丈夫だろ。周りには強い奴が沢山いるんだし、名前の事は絶対守ってくれるはずだしな。」

『…その中にシャークは入ってるの?シャークは私が危険な時、私を守ってくれるの?』

「守ってやるよ。たとえどんな事があってももうあんたは身内みたいなもんだろ?」

『…ありがとう。これだけは嬉しい誤算だわ。まさか頼りになる味方が増えるなんてね。』

「あんた敵じゃない奴も敵に回しそうだしな。なんだかいつの間にか作ってそうだ。」

『ああ、それ自覚している。』

「でもその分味方も増えてくから安心しろよ。俺はあんたが姫じゃなくても守りたいと思ったさ。俺も下からここまではいやがってきた。名前だって同じようなもんだろ。それが国だって言うのが厄介だが、その戦う心意気。俺は気にいってるぜ。」

『逃げるのも負けっぱなしも嫌だから。』

「同感だ。」

-

『メイズー、ただいまー!』

「プリンセス!?その怪我、モンスターにやられたんですか!?」

『あ、対したことないよ。さっきまで残り1のHPがメイズに会って半分くらい増えた気がするから。あぁ、癒やし…。』

「んな訳あるか。俺がでこピンしただけで気絶しそうな体力の残り方してはしゃぐな。ほら、手当てすんだからこっちこい。さっさと脱げ。」

『メイズの前でなにするき、このロリコン。』

『なにもしねぇよ!いや、するけど手当てに決まってんだろうが!上着を脱げって意味だ!」

『顔真っ赤ー、可愛いー。シャークって何気にうぶ?いやー、見かけによらず、』

「名前、手術してやろうか?」

『調子のりました、すみません。』

「んだよ、心配して損したぜ。」

『うん、シャークのおかげですっきりしたの。私には皆がついてるからね。ありがとう。勿論メイズも!』

「僕は何もしていませんよ。」

『いるだけで心強いんだよ。』

「僕も兄さんとプリンセスが話してる所も見ていると嬉しいです。また遊びに来てくださいね。」

勿論だよー!と抱きつく前にシャークに消毒液をぶっかけられる。超痛い、超しみる。全く、といいながらも優しい手つきと顔で手当てするシャークになんだか安心した。包帯を巻き終えて終わり、と告げた後シャークに抱きついてみた。真っ赤にした顔になんだか癒された。ここの兄弟可愛いな。





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