04
取引期間残り24日。昨日はシャークとメイズに会いに行って仲良くなった気がした。ちょっと進展があって嬉しかったりする。出かけるために昨日と違う服を着てみる。ここにあるのは全部姉さんのおさがりだ。姉さんが着れなくなったものや気に入らない物は貰うようにしてる。

『おはよう。チェイカ、アルメダ。』

「おはようございます。あら、またおさがりですか?昔から新しいのを買うって言っても聞きませんわよね。」

『だってギルカタールしか着れないじゃん、こういう服。買っても意味ないしさ。気に入った服があったら買うよ。それに今は取引優先だから。一銭も集めてないしね私。それじゃあ、行ってきます。』

「今日はどこにいくんですか?」

「婚約者候補に決まってるでしょ。どのお方の所に?」

『カーティスに。』

「…気をつけてくださいね。」

『は、はい…。』

チェイカの笑顔が怖いっ。チェイカの笑顔が怖いっ。そんな笑顔から逃げて外に出る。そういえばカーティスってどこにいるんだろうか。シャークは病院、ロベルトはカジノのイメージ。だが暗殺者とはどこにいるのか、うーん。とりあえずブラブラとその辺を歩いてみようかな。

『(この辺も道が変わったなぁ。知らない道は楽しいけどここはどこだろう…?昨日もそうだけど私学ばないな。今度誰かに案内させようかな)』

「…あ…から。」

「…いや、…だが。」

『誰かいる?(道聞けるかな、結構奥まった所来ちゃったけど)』

「カーティス様。この仕事は俺がします。」

「いや、私が。」

「いや、俺ならこいつより相手を痛めつけて殺せますよ。カーティス様。」

流石ギルカタール。やっぱり会話も普通じゃない。やっぱ帰ればよかったな。よく周りを見ればスラム街。治安が悪さそうだ。護衛もつけないのはやっぱりまずかったかも。姉さんもこんな国にいて普通になりたいなんて思える時点で普通じゃない。さっさと去ろう。

『ん、でも今カーティス様って言った?「動くな。」っい!(いつの間に後ろに、さすがギルカタール。つかナイフ首に当たってる!)』

「女がこんな所になんのようだ。身なりを見る限りいいところのお嬢さんっぽいが。」

「なにやってるんだ?」

「女が盗み聞きしてやがった。」

「ああ、気配はわかっていたが。まさかこんなお嬢様だとはな。」

『か、カーティスっ!』

「離しなさい。その人は僕の未来の奥さんになるかも知れない人ですよ。」

「奥さんっ!?」

「プリンセス。大丈夫ですか?」

『お前とは絶対結婚しない…!痛かった、怖い。意味わかんない!助けろよ!』

好奇心なんかでくるんじゃなかった!!甘く見すぎていたよ。ギルカタール、怖すぎる。護衛をつけたってこんな面子と喧嘩になったらやられるわ。地図持っても現在地点よくわからないし駄目だな私。取引成立前に死ぬな私。

「あなた達のせいで僕の未来の奥さん候補が消えちゃったじゃないですか。」

【す、すみません!】

「死んで償いなさい。」

『ちょ!!殺さなくてもいいじゃん!!あんた発想が突発すぎやしませんか!?』

「本当は貴方の首すじに傷をつけただけでも死に値します。けどまぁ、それは貴方に気づいていたけれど声をかけなかった僕が悪いので。」

『お前が死ねよっ。気づいていたなら声かけてよ!死ぬかも知れなかったんだから!楽しんでるんですか!涼しげな顔しやがってムカツク。』

「貴方たち。僕の未来の可愛いお嫁さんを…、やっぱり殺します。」

『わかった。まだ婚約者候補として結婚を考えるから殺さないでいてあげてください。』

「プリンセスはこいつを庇うんですか?プリンセスに庇って貰うなんて…、殺しますか。」

『どっちにしても殺すの!?ちょっ、今日はカーティスの事を知りに来ただけであって。そういう危ないものを見に来たんじゃないのっ。』

「じゃあ僕の殺し方みます?」

『いらない、やめて。話し聞いてました?そういう危ないのは嫌なの。なんかもっとないの?』

「僕は殺しが上手い以外は普通の男ですから。」

『そっか。まぁ、でも普通が一番じゃん?よかったね、って可笑しいかな。私はそういうの出来ないし。』
 
キョトンという目で見られた。なにか変な事言ったか!?普通になるって結構大変だよ。姉さんも目指してるし。私は私が普通だと思っているけどこっちの人は自分が普通だと思っている訳だ。だからカーティスが殺しが得意なのもこの国では普通だ。私がとやかく言う事ではない。

「本当に普通の人なんですね。」

『まぁね。だから命狙われたら助けてね。』

「いいですよ。プリンセスの騎士なんてなんか格好いいです。」

『騎士より暗殺者の方が格好いいんじゃない?ギルカタールでは。』

「そうですね、そういえば服。似合ってますね。可愛いです。」

『…。』

「なんです?誉めてさしあげたのにそのアホ顔は。誉められるのが嫌いなんですか?貴女は変な人だ。」

『プリンセスに対してアホ顔って。いや、カーティスって素直なんだなー、って。なんか人を褒めるイメージなかったから。もっと性格悪いと、』

「失礼ですね。」

『ごめん、ごめん。なんかこっちの人って皆気持ちにストレートだから反応に困るんだよね。』

「プリンセスの国では誉めないんですか?」

『男の人があんまり親しくない人に可愛いとかストレートにいうとタラシってか…、軽く見えるかな?なんだか慣れてる人見たい。そういうイメージなかったから。』

「そういう例をあげるということは僕とはまだ親しくない部類に入るんですね。」

揚げ足をとったな。やっぱり性格悪かった。会ったのが一昨日だから仕方ないではないか。それで同行ですか?と聞いてくるので違うという。まったく金を集めようという気になれません。暑いんだもん。今更無理かなぁ、とかね。楽観的に考えている。

「…昼間に砂漠に行きたくはないんですよね。」

『同行の誘いじゃないから大丈夫。暑いしだるいし…。面倒じゃん?いまから行くなんて勘弁だね。』

「プリンセスも暑いと思いますか?」

『昼間の砂漠を涼しいと思う人はいないと思うけど。』

「それはそうですけど…。僕、暑いの苦手なんですよね。」

『暑いのが?よくギルカタールに住んでるね。私は勿論慣れてないけどギルカタールの人は慣れてるのかな、と。』

「この国はいい国ですが暑いのだけはいただけない。幸い僕の仕事は夜なんで昼間は寝て過ごせばいいんですけどね。」

『なる程。暗殺者は天職なんですね。あ、じゃあ帰るわ。』

「?なんでですか?」

『だってお昼寝するでしょ?邪魔してごめん。今度からは夕方訪問しようか。あの部下かよくわからないけど攻撃しないようにだけ言っておいてね。』

「そんな事気にしないでくださいよ。貴方には興味がある。ぜひ、同行を頼んでください。昼間の砂漠は嫌ですけどね。」

『ありがとう…。じゃあ今日はどうしよっか?お互い砂漠には行きたくないし。暑いの苦手同士だしね。』

「そうですねぇ、護身術でも教えましょうか?なにもできないのは困りますでしょう。覚えておいて損はないですし。まぁ、ここで簡単な護身術なんかで負ける人はいないですけどね。」

『じゃあ意味ないじゃん。それにいらないです。カーティスに教えられるの怖いし。』

「そうですか?」

今更そんなことしても意味ないでしょ。しかも教えるという本人が意味がないと断言している。そもそも気配が読めないのだ。強くなっても後ろからぐさっとやられたらジ・エンド。どうしようかぁ、なんて話してみる。なんかこうやって話してると穏やかで暗殺者って感じがしないなぁ。

『カーティスって表情あんまり変わらないね。』

「いきなりなんですか?」

『(いや、なんか穏やかで。本当に皆から恐れられてんの?)よし、砂漠行こうか。』

「…嫌がらせですか。」

『まさかー。ちょっとその穏やかな顔を変えてみたいな、って。』

「…性格悪いですね。嫌ですよ、暑いのに。」

『えー、だから連れてきたいのに。』

「僕暑いと気を紛らわすために八つ当たりするかも知れませんがそれでもいいですか?」

『すみません、調子にのりました。じゃあどうしよっか。』

「そうですねぇ。なにか知りたいことは?」

『…えーっと、趣味はなんですか?』

「毒…、とかですかね。」

『すみません。ちょっと私、用事思い出したんで帰ります。まぁ、また機会がありましたら呼びますので…。』

「まぁ、待ってくださいよ。そんなに警戒なさらなくても。」

『いやです!!無理です!!警戒します!!毒って!!無理無理無理無理無理無理。』

「無理って言い過ぎですよ。」

『私一般人!!庶民、庶民!一般ピーポー。』

「なに言ってるんですか。貴方はプリンセスでしょう。」

『言ったでしょ、私普通なの。離してください。』

振り払えばいいでしょう、なんて涼しい顔でさらりと言われた。いやさっきから頑張って手を離して貰おうと指を頑張って引っ張ってみたり手を抜こうとしてみたりしてるんですけどっ!!びくともしない。この細身にどんだけ筋肉がっ。さ、さすが暗殺者。

「疲れすぎですよ。貴方って…、面白いですね。」

『ん?どこが?カーティスの面白いの基準がわかりません。なんかやっぱりズレてそうだよな、色々。 やっぱ近づかない方がよかったかも…。』

「そんなこと言わずに。プリンセスの趣味はなんですか?」

『趣味?趣味ねー、本を読む?なんか作ったりするのは好きかな。うん、趣味じゃないね。』

「貴方って本当に面白いですね。」

『からかってます?馬鹿にしてます?』

「まぁ、多少は。」

『ひどっ。一応プリンセスなんですけど。』

「国を出たんでしょう?自分で一般人だと言ったではないですか。」

『…カーティスには勝てません。口で勝負して負けるなんてライル位かと思ってたのに。あ、そうだ。やることがあった。』

「なんです?」

『道が変わったからなにがどこにあるかわからないんだよね。良ければ案内してくれないかな?なんとなくは覚えてるから思いだしたいんだ。いい店があるなら教えてほしいし。』

「えぇ、喜んで。貴方をお守りしますよ。」

『あはは。さすが騎士。』

「暗殺者ですけどね。なにか買ったりします?僕のお勧めの店って言ったら酒や武器の店になってしまって女性が楽しめる所なんて知らないですよ。まぁ、店が多い通りならわかりますが。」

『それでいいよ。そうだ。服、買おうかな。これ全部姉さんのおさがりなんだ。でもそんなに数ないし。荷物もそんなに持ってきてなかったからね。あ、せっかくだからカーティス選んでよ。』

「僕が選んでいいんですか?」

『うん。まぁ、趣味は危ないけどセンスは良さそうだし。』

「プリンセスの頼みなら。センスがいいかは分かりませんが。」

『その方が婚約者候補っぽいしね。お願いしまーす。』

その後さすがと言っていいほどの道を教えてくれた。裏道、近道、さまざまだ。もしなにかあって逃げるならここがいいとか、使わない事を祈るが。地図を見ながら目印になる建物をみて道を覚える。色々案内してくれる彼はいたって普通で暗殺者っぽくないけどやっぱりちょっと危ない人(趣味とか)かもです。でもいい人です。…きっと!




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