力は未来を描く
マンマの一言で始まったこのゲームも早くも最後の1人となった。パーチェのことだから美味しいものでも食べに行こう!とかいうと思ったのに。来たのはカテリーナさんのお墓の前。優しい顔でお墓の前で色々喋る彼を見てると胸がきゅんと痛む。たまにこういう真面目なことするから侮れない。天然なんか、計算なのか…。

「それでね、母さん!ようやく名前に俺の気持ちが届いたんだけど。今は皆の取り合い中だから返事はまだなんだ。でも俺絶対名前を幸せにするからさ!」

『そういう何気ない言葉はやめてー。地味にプレッシャーだからあああぁぁ。』

「え、でも俺は別に母さんに報告してるだけであってさ。名前は名前の気持ちを優先してくれていいんだよ。」

『わかってるよ。デビとじゃあるまいしパーチェが純粋にカテリーナさんに報告してることは。だけど私の胃が痛むからやめてっ。』

「ええ、これからおいしいご飯を食べるんだから駄目だよ!」

『その方がパーチェらしくていいや。』

「でも今日は俺は俺だけど、俺らしくないところも見せたいんだ。」

『俺らしくない?』

「んー、まぁ全部俺なんだけどさ。もし名前がこれから俺を選んで隣にいてくれたらさ、それって凄く素敵なことだと思うんだ!だから少しでも俺を知って俺との未来を想像してほしい!」

『パーチェとの未来…。』

「そう!だって名前ったら島から出てた時期が長いしさ。そりゃ、リベルタ達よりはしってるけどデビとには負けるし…。だから再確認ね。」

小さいころから変わらない明るい笑顔で言われる。どうして昔からパーチェの笑顔を見ると元気が出るんだろうか。大丈夫!俺がついてるよ!と笑って泣いてる私を引っ張ってくれた頼もしい存在。いつだって弱音なんか私の前ではいたことなかった。頼もしい大きな存在。暖かい手に連れられやってきたのは領主の館だった。

『待て待て待て。私さっき言ったよね、胃が痛くなるからって!』

「うん?ただアルベルトに紹介しようと思って。」

『そういう周りから固めていくのやめようっ。だって、もし、あのー、』

「もし名前が俺を択ばなくたっていいんだよ。俺は名前が好きって皆に知ってもらいたいだけだし。それに俺の決意を名前に知ってほしいだけなんだ。それにさ言ったでしょ。もし俺を選んでくれたときを考えて想像してほしいんだ。未来をね、気楽にいこうよ。」

『気楽にねぇ…。』

「まぁ、俺を選んでくれた時のために結婚後を想像しやすいかと思って連れてきてはいるから警戒するのもわかるけど。」

『っ!パーチェが計算高くて怖い…。』

「だって今まで俺ずーっと我慢してきたんだよ!ずっとずっと好きだったのに、皆が名前を好きとか言っちゃってさぁ。そりゃそんだけ魅力的だし素敵だってのもわかるけど!俺は誰にもこの気持ちは負けないんだ!」

『パーチェ…。わかった、ちゃんとパーチェとの未来を想像するから。だから館の中で叫ばないで!』

「愛を叫ぶ、なんかいいね!」

『よくないわ!恥ずかしくて死ぬ!』

「騒がしいと思ったらあなた方でしたか。まぁ、騒いでいるのは1人だけですけど。」

「やぁ、アルベルト!近くまで寄ったから会いに来ちゃった。」

「ああ、これはこれは名前様。わざわざありがとうございます。先日の案件とても助かりました。通訳がいいと相手方もスムーズに商談が進み、歌の方も拝聴したらしく。それはもう褒めていただいて。」

『ああ、あの案件が無事に済んだのですね。それならなによりです。島のためにこうして役に立てるならアルカナファミリアとしても嬉しい限りです。』

「またなにかあれば是非お力を借りたい。」

『島のためとなるならいつでも微力ながら、』

「俺抜きで仕事の話をするのはやめよーよー。それに今日は仕事はなしなの!」

「いつもお世話になっている、しかも歌姫が目の前にいたら挨拶くらいするでしょう。貴方もアルカナファミリアの幹部ならそれくらいしたらどうですか。」

「俺は代理だからいーの。それより名前を今日は紹介したくってさ!」

「この島で彼女を知らない人なんていな…、まさか等々!」

「えへへー、そうなんだぁー。だからさぁ、今母さんのお墓に挨拶してアルベルトの処にも来たんだよねぇー。」

「そうですか。小さいころから名前様の話ばかり、というか一方的な愛を語っていましたかね、私が聞いてもないのに。それで、式はいつですか。」

『式!?いや、ちょっと領主様誤解が、』

「なにをおっしゃいます。いずれは領主の妻は貴方ですよ。これで島は安泰ですね。歌姫様がいればもっといい島になること間違いなしですから。心配だったんですよ、人は良くても疑うことを知らないですからね。」

「疑うより仲良くなりたいじゃん。まぁ、その辺は名前がビシバシ見てくれるからさ。」

「そうですね。名前様なら文句のつけようがありませんよ。」

「でしょでしょー。」

『私を置いて話を進めるな。おい、こらパーチェ!』

てへ、なんて顔してるけどそういう報告じゃないんだけど。しかもお前は領主になるのか。継ぐの嫌だったんじゃないのか。色々聞きたいことはあるけどまずはアルベルトさんの誤解を解かねば。これからも彼とは仕事するだろうし。パーチェがわざわざ否定しなくてもー、とか言って腰に抱き着く。弟が優しい目で見つめてくる。やめて、いたたまれない。

「つまり、報告というのは名前様に告白したということですか?」

「そうだよ!ようやく俺の思いが届いたんだよね!」

「届いてないじゃないですか!理解していただいたかもしれませんが受け取っていただいてないでしょう!」

「それを今からがんばるんじゃない。で、とりあえず俺たちが付き合ったらここにも来るだろうし。色々名前にも教えとこうと思って。」

「色々順序を飛ばしすぎだと思うのですけど…。」

『私もそう思う。』

「とにかく俺が好きな人は、俺の大事な家族にもしってほしかったの!」

「…そうですか。じゃあ次は結婚式であることを期待してますよ。名前様いつでも歓迎しますからね。」

『あ、ありがとうございます。』

「では私は仕事がありますので。」

「突然押しかけてごめんね。アルベルト、今度は3人でゆっくりご飯でも食べようね!」

困ったような、それでも嬉しそうな顔をしてアルベルトさんは館の奥へと帰って行った。そっとパーチェを見れば本当に幸せそうな顔をして。その顔になんだか涙が出そうになる。ずっと引っかかっていた。パーチェが未来、と言っていたのに。そして次領主になることも。そして私にこうして挨拶してまわるのも。

『未来を、考えてるんだね。』

「…やっぱり名前には叶わないな。あのね、誰にもまだ言ってないんだけどアルベルトと仲良くなって、それで領主にならないかって言われてて。ずっと断ってたんだ。ダンテからの幹部になれって話もそうだけどさ。俺にはずっと未来がないから、って思ってた。」

『うん。』

「名前のことだってずっとずっと昔から好きだった。でも伝えようとしたら島からいなくなっちゃったし、帰ってきたときにはもうさ。俺は自分が長く生きれないって知ってたから。それでも好きだったからこの力で守れたらって思ったんだ。」

『そう。』

「そしたら名前やお嬢、皆のおかげで俺はずっと生きられるようになったでしょ。最初は実感わかなかったけどさ、それから少しずつ考えるようになって。俺には未来があるんだって。この島のためにもっとずっと生きられるんだって。そしたらやりたいことが山のようにできてさ!」

『(よかった、)』

「それでね、自分なりに色々考えててアルベルトやダンテに話を聞いたりしてさ。自分で何ができるかなぁ、って。自分にできることはやろうって決めて、名前にもう一度告白しようって思ったんだ。そしたらアッシュの件があってさ。名前が元カレを抱きしめて泣いてるの見て凄くつらかった。嫉妬もあるけどさ、やっぱり、やっぱりさ。ねぇ、名前。」

『…なぁに、パーチェ。』

「俺の側で笑っていてほしいんだ。あの時守らなきゃ、側にいなきゃって思った。俺を救ってくれた時もそうだったよ。いつも守られてばっかりで、悔しいって。俺はずっと小さい頃から名前が大好きで隣で笑っていてほしくて、俺が守りたいんだ。だから、泣かないでよ名前。」

『ちがっ、』

ずっと話を聞いてて涙があふれてきた。再会したときは私もパーチェも命がもうないってわかってて。だったらこの島、人のために皆のために使おうって。それでも本当は生きたいし、ずっと皆といたいって思ってた。あの時のパーチェはすべてを諦めていた。自分には未来がないからこれからを背負っていく大きな役割にはつかないと。

『パーチェが未来を、未来を信じて生きようとしてくれてるのが嬉しいのっ。これからを考えてるのが嬉しいの。嬉しい涙だよ、パーチェの馬鹿!』

「でも俺は名前には笑っていてほしいなぁ。それにこうやって考えられたのも全部名前のおかげだもん。だから俺の側でずっと笑っていてくれないかな?いつも誤魔化してきたし誤魔化されてきたけど、好きだよ。ずっと好きなんだ。」

『…私はパーチェが生きていてくれて嬉しい。いい領主だって慣れると思う。ファミリーを抜けるのは悲しいけどいつだって会えるし。私はパーチェにずっと笑っていてほしい。いつもあの笑顔を見るとほっとするから。』

「まだファミリーを抜けるかは考えてるんだ。両立は難しいだろうからね。でも抜けたくないし、ってさ。名前が隣にいてくれればいいんだけどなー。」

『うっ、か、考えさせて!』

「うん、今はそれでいいよ。」

『パーチェ、貴方はとっても大事な人よ。』

「ありがとう、だけど特別になりたいんだ。俺だけの名前になってほしい。」

大人びた顔で涙を拭われてドキドキする。その優しく暖かい大きな手はいつも私が知っている彼の手ではない気がした。優しくスルリ、と撫でられると背筋が伸びた。優しく上を向かされ目が合う。そこにはいつものパーチェじゃなくて男の人の顔をした彼がいた。でも口付けは優しく、暖かく、また涙が出そうになった。



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