魔術師とお茶会
ジョーリィーの事件があったあとそれはもう散々文句を言われた。隙がありすぎるとか、ずるいとか。これがリベルタとかノヴァだったらこんなに大事にもならなかっただろうに。なんせ相手はあの人だ。デビトがぶち切れ、暗殺計画を企て大騒ぎ。日ごろの行いのせいだ。まぁ、簡単には殺せないだろうしほっておく。それより今日はアッシュの日なのだから。

『いらっしゃーい。』

「どうも。仕事はもう終わったのか?午前中は忙しいってあんたの従者から聞いたけど。」

『うん、通訳の仕事が久々に入ったの。従者じゃなくて部下だけどね。最近私の周りを大アルカナが占領してて嫌がってるよ。俺達はどうしたらいいんだー、ってね。』

「確かにな。名前が前に言っていたライオンになる奴にももう1度会いたかったんだけどな。一回調べさせてもらったけどあいつは錬金術ってより人体実験だしな。」

『なんだったら呼ぼうか?そういう話にする?』

「…いや。せっかく名前を1人占めできる時間だ。そういう事はこの島にいる限りいつだってできるだろ。あんたがフリーの時の方がめずらしいからな。」

『そうかな。結構1人の時間もあるけどね。』

「まぁ、歌姫様は忙しいからな。今日の時間を有効に使おうと思ったんだが、」

『私の部屋じゃ不服?』

アッシュは最近知り合ったばかりだ。しかも私は幽霊船で自分の元恋人の方でてんやわんや。ここに来てからも彼は船にいたり、ジョーリィーの実験に付き合ったり。私は私で仕事がある。中々ゆっくり話す機会がなかったのが現状だ。嫌われてはないし、なんだか最近は高感度は上がってきてるようだけど。

『一度お互いの事をゆっくり知ろうと思って。アッシュもそのために参加したんでしょ?』

「言っただろ。結構気にいってるからなあんたの事。まぁ、でも俺も知らない事ばっかだしそういうのもいいかもな。この後時間はあんだろ?」

『午前中のうちに仕事は終わらしたから。後は島に誰かが襲撃しない限りは暇だね。』

「じゃあ、夜まで時間をもらってもいいか?ほら、なんだ…。その、キスしちまったし、お詫びするって言っただろ。だから本当は町でもなんでも名前に付き合うつもりだったんだが、」

『気にしなくていいのに。今の照れた顔見れただけで満足だけど。やっぱりアッシュもまだ子供と言うか。可愛いとこあるんだねぇ。』

「あんまり変わらねぇだろうが!あのヒヨコ頭よりましだっ。大体俺はあの船で育ってきたんだから女の扱いなんてしらねえよ。」

『リベルタとアッシュってそういうとこ似てるよね。』

「一緒にすんじゃねぇ。ヨシュアには世話になったけど俺の方が断然大人だ。絶対年下だとおもったのによ。」

『ああ、見た目はアッシュの方が大人っぽいかも。』

「だろ!」

嬉しそうな顔をして笑うアッシュ。なんだかいつもつんけんしてるというか去勢をはってるというか。まだファミリーに一線引いているが最近はそれもなくなってきている。なんせこう自然な顔を見せてくれるようになった。照れた顔も、笑った顔も滅多にしないけど年相応で可愛い。いつもそうしてたらいいのに。怒られそうだから黙っとこう。

『それじゃあ夜はなにかプランがあるの?』

「特にこれといって決まってはねぇけど夜は俺の船に呼ぼうかと思ったんだ。ちゃんと案内したことなかっただろ?勝手に入ってきた事は何度もあるけどな。」

『アッシュが中々館に来ないからね。』

「あー、別にもっと前に誘ってもよかったんだけど。カテリーナとか元彼とか、色々あったし。思い出させんのもどうかと、いつも忙しそうだしな。」

『…気を使ってたの?』

「なんだよその意外、みたいな顔は。俺だって色々考えてんだよ。」

『いや、アッシュはいい子だって知ってるけども。そう、ありがとう。』

「別に。本当は色々見せたいもんもあるしよ。だから夜は俺の船に招待してやる。本当は朝から行って、その後島をぶらついて飯でも食いに行こうかと。名前はよく飲みに出るんだろ?うまい飯屋をしってると思ってよ。」

『美味しいお酒の店なら知ってる。つまみ系なら任せて!』

「そんな嬉しそうな顔で言われてもな…。まぁ、でも予定は狂ったし、その都度考えればいいんじゃねぇの?俺はこうしてゆっくり話しできただけでも満足だしな。」

『アッシュにしてはその考え珍しいね。なんか等価交換!とか時間は勿体ない、みたいなイメージだから。』

「そうか?有意義か有意義じゃないかは俺が決める。それに有意義にすればいいだけの話だ。それで名前は俺を部屋に呼んだ理由はあるのか?ただの待ち合わせか?」

『そうだった。』

ノヴァと部屋の片づけをした時にでた物がまだ部屋にあるのだ。今回このゲームは年下順と言う事だしそっから早いもの順だ。ゲームには参加してないがジョーリィーのが最後。あの人を最初にしたら全部持ってかれそうだし。ノヴァは日本系の物。リベルタは剣はスペランツァがあるからどうか知らないけど仮面かな。錬金術師組以外は案外かぶらない気がする。

『早いもん順だからね。好きなのもっていっていいよ。ルカもジョーリィーも知らないから実験に使えそうなもの持っていっちゃって。』

「まじでいいのかよ!結構いいもん揃ってるぜ。これとか、これとか!武器とかもあるし。…今日は俺がなんか返す日なのに意味ないだろ。」

『私にとってはいらないものだし貰ってくれる方がありがたいんだけどな。それにキスの事はなんとも思ってないって。』

「なんとも思ってないのもそれはそれでむかつくだろ。名前って年下の事可愛いって言って可愛がってるけど恋愛対象じゃないわけ?」

『そんなことないよ。寧ろ幼馴染組は近すぎて兄弟だし、ノヴァは弟のようかも。まぁ、今は皆見方が変わってきてるけどアッシュが一番考えやすいかな。恋愛対象としては。今までのそういうのがないじゃない。』

「それ、期待してもいいってことか?」

『それはアッシュ次第でしょ?』

「はぁー。キスの時もそうだったけどあんたって男を転がすのがうまいよなぁ。慣れてそうですっげぇむかつく。あの眼帯野郎の横で育ったから納得だけど。」

『言っとくけど私そんなに経験ないんだから。付き合ったのだってあの船で幽霊だった人くらいだし。』

「まじで言ってんのかそれ。」

嘘ついてどうすんだろうか。昔から仕事ばかりしてきた。男の中で育ったし、デビトの影響もあるせいかこうやって受け流す答えには慣れている。でもいざ、って時は絶対照れるし不慣れだと思う。昔金貨も言っていたが私ってそんなに遊んでるイメージかな。歌姫って名前だけキラキラしてるけどやってる事えげつないんだけどなぁ。島つぶしたり、拷問したり。

「ふーん、じゃあ結構押しに弱いんだな。いい事知った。」

『なんで近づくのっ。』

「そうやって照れたり焦ったりするの、いいな。なんかこんな事昔も言った気がするけど、そうやってしとけば可愛いのに。」

『私もさっきアッシュに同じ事思ったよ。』

「俺のどこが可愛いんだよ。よく言ってるけど嬉しくねぇからな。じゃあせっかくだからこれとこれ、貰ってくわ。お返しはそうだな、」

『なにもいらないって。錬金術師同士では等価交換が必要かもしれないけど私はいらないから。なにか欲しくてあげてるわけじゃないし。』

「でも男が女からもらいっぱなしもかっこつかないだろ。なんか考える。それに一応、好いてる女からだし…。」

『…アッシュって私の事本当に好きなの?』

「今さらかよ!結構前から言ってんだろ。気にいってるって。」

『それは聞いたけど。お嬢様といい感じじゃなかった?』

「あれはからかってただけで。それにあいつはへたれ従者が好きだろ?」

『やっぱりそうなのかなぁ。全くお嬢様もなんでルカなんて選ぶんだか。いい奴だけど、なんか物足りないっていうか。私はもうちょっと危険な男の方が好きだなぁ。』

「まぁ、元彼が海賊だったしな。そういう点なら俺の方があんたの男に合ってるかもな。退屈はさせねぇぜ?」

近くでニヤリと笑うアッシュはリベルタより年下だとは思えない。というか私と同い年くらいに見える。なんていうか色気がある。うん、確かに私の好みかもしれない。ルカよりは。そうだね、なんて笑うとそっぽを向いて照れ出した。なんだ、この子。可愛いな。

「本当に調子狂うっ。なんでそこで固定してくんだよ!」

『自分で言ったくせに。あ、そうだ。アッシュが来たらお茶にしようと思って用意してたの。ほら、座って。紅茶飲める?』

「もう3時か。お、アップルパイ!この形はルカの手作りか?あいつ料理とかは上手いよな
ー。」

『私が作ったんだよ。日本料理以外はルカに習ったのが多いから似てるのは当然かも。きっとルカの方が頻繁に作るから美味しいだろうけどね。アッシュは林檎が好きだから作ってみたんだ。』

「上手い、けど…ノヴァにもこんなことしたのか?」

『なんでそこでノヴァがでてくるの。あ、甘いもの好きだから?』

「手作り、しかも俺の好みに合わせるとか…。本当に複雑だな。」

『期待させんなって?でもそういうゲームでしょこれ?お互いを知る。恋愛対象とみて接したりして、ありかなしかを決める的な。』

「どこまで信用していいかわからねェのがタチわりぃ。こっちが踊らされてどうすんだよ、ったく。」

『そんなアッシュも好きだよ、可愛くて。』

「はいはい、ドーモ。」

『棒読みすぎる。ノヴァにはお茶を点てたよ。お菓子は貰ったお菓子だったなぁ。それで告白されちゃったんだよね。とりあえず今はこのままでいいけど、みたいな。ノヴァが大きくなるまで待つ、というか守る、って言ってたけど。』

「…それ俺に言っていいのかよ。つか、言うなよ。」

『あ、ごめん。』

普通にお茶会になってたからお喋りのノリで言ってしまった。そうか、無神経だったな。どう接していいか難しいな、と悩んでいたらアッシュが立ち上がって私の前にきた。座ってる私は必然的に彼を見上げれば降ってきたキス。絶対に振り向かしてやる、と私を見る強い綺麗な瞳にどきりとする。さっきのお返しだ、と舌で唇を舐めるアッシュ。それ貴方が得してない?とは聞けなかった。



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