月の反逆
陽月様へ

スミレの提案ので歌姫争奪戦(名前を射止めるラブゲーム)という馬鹿げた名前のイベントが今館で開催されている。勿論こんな名前をつけたのはあのデビトだ。そしてなぜか私とダンテは対象外としてはずされてしまっている。まぁ、別にこんなものに参加しなくても私は私のしたいように行動するがな。

「という事で名前。私と町にいこうじゃないか。」

『えっと、ジョーリィー。なにがという事か、さっぱりなんだけども。』

「ふざけんなくそジジィ。てめぇはこのゲームにお呼びじゃねぇんだよ。」

「デビト。私は名前を誘ったのであってお前に声はかけていない。私はそんなくだらないゲームに参加する気は全くないから安心しろ。お前達が仲良く牽制し合っているうちにこちらはこちらで勝手にやるさ。」

「なになに!ジョーリィーも名前の事が好きなの!?」

『これ以上ややこしくしないで。ジョーリィーの場合好きとか、あり得ないでしょ。どうせ研究目当てとか、能力目当てとか。』

「それも一種の感情だろう。人はその人の能力、つまり性格、個性、特技などに惹かれる。外見も入るかもしれないが私は君をかっているんだ。その中身、能力を含め私だけに使ってほしいと思っているよ。」

「やっぱり能力って事だろう。ジョーリィーみたいな能力のためには手段を選ばない奴に名前は渡せない。」

「これは小さな騎士のおでましかノヴァ。では、言葉を替えよう。君が私だけのものになることを望んでいる。」

顎に手を添え上を向かす。周り、特にリベルタあたりが発狂してうるさい。まだ口づけもしてないというのにお子様は元気な事だ。当の本人は私が至近距離で見ているというのに呆れた顔をしている。そういう所が気にいってるとというのをわかっていないようだ。

「くっく、つれない歌姫だ。」

『ジョーリィーは昔からそうやって私をからかうから。』

「私は結構本気だぞ?ダンテはどうなんだ。」

「俺か?そうだなぁ。名前はそりゃ綺麗だし、器用だしいい女だ。嫁に来てくれるというのなら嬉しいが。俺よりももっと相応しい奴がいるだろ。ここには若い奴らがたくさんいるしな。」

「そうだダンテの言う通りだ。おっさん共はひっこんでな。」

「おっさん言うな!」

「つーか、次のターンは俺だろ?それを差し置いて勝手な事するなよな。只でさえ俺はこいつらと違って何も知らない。スタートが出遅れてんだからよ。」

「なんだかんだ言ってアッシュもノリきなんですね。」

「ヘタレ帽子は黙ってろ。俺は逆に今までこいつがフリーだった方が驚きだな。パーチェやリベルタは前から好きだったんだろ?なのに今になってこういう事になるなんて甘いんだよお前ら。」

「だからそれはだな!こっちにだって色々あったんだよ!パーパが倒れたり、名前が倒れたり!終わったかと思えばアッシュお前だ!しかも元彼の話を聞いただろ!ようやく区切りがついてだな、」

「ヒヨコ頭はこれだから。俺ならそんなもん関係ねぇ。欲しいものは奪うだけだ。もっとお前らが強引に行けば今ごろ誰かと付き合ってたかもしれねえ。俺がその頃にいなくて感謝するんだな。」

「その頃にいれば自分が奪えた、とでもいうのかな。」

私の言葉に挑発的に笑って近づいてくるアッシュ。まだまだ子供だというのに強がるのはやはり子供だからか。視線を彼女に向けるとアッシュを居心地悪そうにみる。大勢の大アルカナに囲まれてのこの状況は彼女にとっては嫌らしい。そのままアッシュが名前に口付けると今度はパーチェが騒ぐ。これは予想がいだ。

『まさかアッシュにキスされるとは…、意外だわ。一番最初はデビトかと思ってた。それかスキンシップ次いでな感じでパーチェ。』

「俺もそう見ていたが、まさかアッシュに先こされるとはなァ。」

「ハッ。お前らがちんたらしてるのが悪いんだぜ。」

「なんて事するの!キスは駄目なんじゃないの!?」

「キス以上が駄目なんだろ?じゃあキスはOKだろ。」

「だだだだからってキスする奴があるか!リベルタが鼻血を出して倒れたじゃないか!しかも名前に対して!斬る!大体アッシュは交流期間みたいなものだろ!」

「自分の気持ちを確かめるつもりのな。なんつーか、人が食ってるものはうまそうに見えるのと一緒だ。皆が欲しがっていると奪いたくなる。」

「この外道!」

「そのいい方はないだろ。会った時から変わった奴だとは思っていたけど。まぁ、嫌いじゃないぜあんたの事。いい女だしな。これから色々もっと知りたいと思う。」

『ありがとうアッシュ。ノヴァは落ち着いて。』

「なんで貴方もそんなに落ち着いているのですか!仇は僕が討ちますからご安心ください。」

『敬語になってるよ、怖いから。つか、キスごときで仇って大げさな。』

「そうだぜノヴァ。安心しなぁ、あんなキス挨拶だ。まぁ、アッシュにしちゃよくやったがな。だが本当のキスはこうやる。」

『はっ!?』

ぐい、と腰を引き名前の唇をかっさらう。他人のディープキスなんて見ても胸糞悪いだけだが周りの反応を観察するにはいい機会だ。ダンテは元々彼女を気にいってはいるが傍観立場だし、今も呆れている。これにはさすがにルカが顔を赤くして騒いでいる。ノヴァにいたっては今にも斬りかかりそうだ。それはそれで面白い。

『っ、大勢の前でなにすんの!』

「アッシュには怒らないで俺には怒るなんて酷いだろ。」

『あんたの場合は加減を知らないからでしょうが。服を脱がせようとするな!私は公開プレイを望むような痴女じゃないから!』

「ああ、じゃあ2人きりならいいってことか。じゃあそういう事で俺たちはこれで抜けさせてもらう。」

「駄目に決まってるでしょ!もう、デビトったら女の人を見るとすぐそっちにもっていくんだから!名前は駄目!絶対に駄目!俺もチューしていい?」

『駄目。』

「なんでぇ!」

『ラッザーニアの味がしそうだから。』

「名前とのキスは美味しそうだよね。きっと甘いと思うな俺。どこも美味しそうだけどね。」

『この天然なのか計算なのかわからないのがパーチェの恐ろしい所だよね。』

「リベルタがいったら天然だけどなァ。」

「俺もキスしたい!わかった、じゃあ消毒っていう名目にするから。それなら名前を思ってだからいいよね?」

「よくありません!なんですかその下心満載のとってつけたような理由は!こんなところお嬢様にみられたらどうするんですか!全く貴方達は!」

「ルカちゃんはこのゲーム参加してないんだから黙っててよ。それともなに!ルカちゃんまで参加するの!お嬢はどうしたの!」

「勿論お嬢様命ですよ!ですが名前の事は大事に思っています。貴方達が彼女に嫌がることをしたり、傷付けるのなら私がもらってもいいんですよ。」

『なんで上から目線なのよ。ルカと結婚ねぇ。…いい主夫になるしいいかもね。』

「なんでそうなるの!ルカちゃんズルイ!ルカちゃんの馬鹿!お詫びにラッザーニア作れ!今すぐ作れ!」

「横暴な!私は幼馴染を守ろうとしている中立な立場で、けして貴方達見たいなやましい気持ちはっ。」

「いや、あるね。絶対ある!」

「バンビーナのストーカーしている奴だからな。名前にだってなにするかわからねぇぜ。」

それは誤解です!と騒ぐルカ。そっからいつも通りの3馬鹿の喧嘩、主にルカ苛めが始まる。それを彼女はことごとくスルーして倒れているリベルタの様子を見る。そこにノヴァが濡れナプキンを持ってきて彼女の口を拭っている。どいつもこいつも過保護だ。しかし名前も年下には甘いので何も言わないようだ。それはそれでずるい気もする。私にもその優しさを分けてくれてもいいだろうに。

『大丈夫リベルタ。ノヴァももう拭かなくて大丈夫だから。』

「貴方は隙を見せすぎだ。いつもは隙がなくて困るというのに。」

『心を許してるってことだよ。皆じゃなきゃこのゲームなんて私が嫌、っていってすぐに打ち切りにしてるし。』

「じゃ、じゃあ俺達も少しは見こみがあるって事か?俺なんてデビト見たいにその、ああああんなキスできねえしっ。アッシュみたいに強引でもないし、」

『別にそういうのが欲しい訳じゃないから。リベルタにもノヴァにも私はそれずれ好きな所あるから。2人はそういう事をいきなりしないからいいんじゃない。私の癒しだわ。』

「いきなりして悪かったな。」

『まぁ、アッシュは年下だから許す。』

「…無理やりした代わりになんでも付き合う。次は俺の番だし等価交換だ。俺ばっかりいい思いしちゃあ悪いからな。」

『あら、私とのキスはよかったって事?』

「貴方はなんてことを聞くのですか!アッシュも照れるな!」

「ちくしょうっ。そう返してくるとは思わなかった。やっぱりイチゴ頭のようにはいかねぇか…。絶対おとしてやる。」

『なんだか対抗心に火をつけちゃったかな。』

「余計な事をしないでくれ…。おい、リベルタ。さっきから黙ってどうしたんだ。」

「俺!俺はいっつも名前に助けてもらってきた。能力が上手く扱えない時も励ましてもらったし。だから今度は俺が絶対守るから側にいてほしい、つーか。楽しい時も辛い時も2人でいれば心強いしもっと楽しくなる。そういう風に過ごしたいんだ!だから頑張るな、俺!」

満面の笑みで名前の手を両手でぎゅっと握る。こう素直と言うか真っすぐでこいつは大丈夫なんだろうか。さすが愚者といったところだな。しかしやはり年下好きなのか我らが歌姫はそんなリベルタにときめいているらしく自分からリベルタを抱きしめている。それにまた顔を赤く、悪循環だな。

『はぁ、今が私の最大のモテ期って奴ね。なんだか怖い。』

「なにがあっても僕が守る。そう約束しただろ。名前が誰かの物になる前に僕が迎えにいく。でも貴方は貴方でもう少し警戒心を持ってください。じゃないとまたなにがおこるやら、」

「それであんたは参加すんのか?負ける気はねえけど。」

「私はそんなものには参加しない。好きな時に名前を誘いに行くさ。個人的にな。」

「迷惑な話だな。大体、」

「うわ、ノヴァ!?なんだよ!」

「ジョーリィーが名前に潰させたり調べさせたりしている研究室はジョーリィーが作ったものもあるだろ。そういう事をさせないためにもこの話が来たんだ。話の原因となっている貴様が名前に近づくなんて。僕は名前の体調や寿命の件だって知ってからお前を許した覚えはないからな!」

「確かに外にでる大半の目的はタロッコの研究。じじぃのせいだな。それなのにその能力まで手に入れたいだなんて都合がよすぎるぜ。」

「リベルタの耳までふさいでご苦労なことだ。研究所で過ごした記憶を思い出すからか?」

『ジョーリィー、やめなさいよ。私の歌でその脳みそ吹っ飛ばすぞじじい。』

「元婚約者に酷い言い方だな。」

「は?お前こんな奴と婚約結んでたのかよ。」

『結んでない!眠っている間にそういう事になってて結局部署移動で落ち着いたの。元々アッシュが来る前私専属の部署があったの。それでアッシュがジョーリィーの下につけば私がぬけれて晴れて部署復帰ってわけ。』

「ああ、そんな事言ってたな。寝ている間に、ってのは初めて聞いたが。」

「いやぁ、色々あったよねぇ。俺の名前への愛は変わらないけどね。いや、寧ろ増えてるよ!」

『あー、ドウモ。』

「酷い!棒読みだ!」

またもや名前を囲みぎゃあぎゃあ、と叫ぶやかましい子供達。非常に不愉快この上ない。そろそろ研究室に戻るか。観察していいデータも取れたしな。部屋に帰ろうとする私に小さく手を振る彼女に心が軋む。幸せになってほしい、なんてこの私が思うはずないと無理やり腕をとりキスをする。唖然とする彼女と周りの悲鳴。やはり私にはこういう方が性に合っている。小さく笑って喧騒に背を向け歩きだした。





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