名前争奪戦の討論から2日後。僕は彼女の部屋を訪れていた。あれから色々考えてみたものの尊敬している彼女が幸せならそれでいい。しかしリベルタやデビトと名前がくっついた時の事を想像してみると少し頭痛がする。なんというか苦労が絶えなさそうで。だったら僕が、僕の手であの人を幸せにするのもありなのではないか。
「いや、寧ろそれがいいような気もしてきた。別につ、付き合おうとか結婚しようとかではなくて…。傍でお守り出来ればそれでいいとも思うのですが、」
『口調がなんだか昔に戻ってるよ、ノヴァ。』
「2人きりになるとつい昔のくせで。マンマとパーパと同じ位僕が貴方を慕っているのは御存じでしょう?」
『そうだねぇ。嬉しいよ、ノヴァは私にとって大事な子だし。』
「またそうやって子供扱いをする。」
『私からしたらまだまだ子供なの。ノヴァは弟みたいに思ってたから。ノヴァだってそうでしょ?だから最初このくだらないゲームに参加しなかった。でもノヴァが向き合うなら私も真剣に向き合うから。お互い自分の気持ちを確かめよう。』
「そうだな。それが一番いい。僕は自分が一番じゃなくても名前が笑ってくれていればそれでいい。この島に居てくれる事には賛成だが、別に束縛したい訳じゃないんだ。」
『皆同じだと思うけどね。誰かと結婚したり島をでたりまた能力を使って体を壊すのが心配なの。皆過保護だから。まぁ、そういう私だってファミリーのために自分を犠牲にしたんだから一緒だよね。大切なんだよ皆。』
「家族愛か、」
誰かが辛ければ助ける。それがファミリーでは当たり前。だったら僕が名前の幸せを願うのも普通なのだ。これが恋愛感情なのか、それを見極めればいい。彼女が僕だけを見て僕を優先してくれる。それは嬉しいかもしれない。すべてが僕の物に、
『ノヴァ。ぼっーと見つめてどうしたの。なにかいやらしい事でも考えてるのか。まぁ、お年頃だもんねー。』
「なっ!?なんでそうなるんだ!」
『おお、いつものノヴァに戻った。まぁ、ゆっくり行こうよ。最近は島も平和だし私も外に出る予定はない。いつも通り仕事をしつつお互いを知って行こうじゃないか。というかお嬢様はいい訳?』
「なんでそこであいつがでてくるんだ。婚約者の件だったらとっくに破棄されている。前回のアルカナデュエロだってパーパが言った事だ。僕もあいつも望んでいない。」
『でも今回もマンマが勝手に言った事だし。』
「これはいきなりそういう話じゃない。さっきも言ったようにお互いを知る期間だ。だったら僕も名前に歩み寄る。それにルカがいるだろ。」
『ルカのお嬢様命は今に始まった事じゃないけどね。まぁ、今回ルカは中立立場だし、お嬢様はルカが好きそうだしいいけど。ジョーリィーとダンテは不参加でしょ。あ、そうそう一番手がノヴァなんてびっくり。デビトとかパーチェが押し掛けてくるかと思った。』
「パーチェはすぐここにこようとしたんだが。昨日また話しあってな。順番を決めないと面倒な事になるからな。今日から1人ずつローテーションすることになったんだ。その日は仕事以外邪魔してはいけないルールだ。」
『それで一番手がノヴァなの?』
「…年の順と言われた。デビトは絶対楽しんでいる。年の順が嫌なら背の順でもいいと言われた。それじゃあかわらないじゃないか!」
ノヴァは将来大きくなるよ、と頭を撫でられる。いつまでたってもこういう扱いで少し不満だ。小さい頃から姉のように慕って後をついて回った。彼女が歌えば一緒に歌い、鍛練すれば隣で僕も刀を振った。いつかその背中に追いついて僕が守りたいと。
『じゃあ明日はアッシュね。年下組が終わったら憂鬱だなぁ。デビトなんて何しでかすのやら。それで、今日は何をするの?私の方はフェイ達に仕事行かせたから大丈夫だけど。』
「僕も今日は休みだ。気になっていたんだが名前は今何をやっているんだ?なんだか物が散乱しているが。」
『片づけをしてたの。フェイに任せてたんだけど最近荷物が増えてきたから処分していいものを別けろって言われて。歌姫やってるとプレゼント貰ったりするし、新作の服とかよく届くんだよね。これ着て歌ってくれ、みたいな。あとは貴族からとか、あと諜報部からお土産とか。』
「確かに外国の品が多いな。諜報部がそんなにプレゼントを?」
『ううん。私の部下外にも何人かいるでしょ?まだタロッコの事研究したりで配置してあるから。それで手紙と共に送ってくれるの。ああ、丁度良かった!ノヴァは甘いもの好きだよね。もらったお菓子が溜まってきてて。』
「確かに名前は物をもらう機会が多いからな。お返しとか色々大変だな。それほどこの島の人に好かれているという事か。」
『そうだといいねぇ。まぁ、皆より裏で回る仕事も多いけどその分表立った仕事も多いからね。よくメイドトリアーテとかお嬢様とか、教会に集まった子供たちに分けたりするんだけどね。』
「僕もよくお茶の時間にもらう。どこからそんなに持ってくるんだろうと不思議だったから納得だ。じゃあ僕がお茶をいれてくる。」
『あ、待ってノヴァ!せっかくだから、』
そういって彼女が出したのは着物だった。慣れているのかあっという間に赤い着物に着替え僕の着付けも済ませる。部屋の奥には小さな畳の部屋があってそこに正座するとお茶をたててくれた。昔もこんな事があったな、と思いだす。
「…やはり苦いな。」
『昔からノヴァは抹茶は苦手だもんねー。ちゃんとフェイが紅茶も用意してるから足崩して飲んでいいよ。ほら、お菓子も食べて、食べて。』
「なんだか昔みたいで落ち着くな。こうやって小さい頃も名前やマンマにジャッポネの事を教えてほしいとせがんでいた気がする。このお茶を飲むたびに僕が苦いと言って、マンマがお菓子をくれて名前が歌って、舞を見してくれた。」
『懐かしいね。ノヴァったら涙目になるもんだからなんとか励まさなきゃ、って思ってたから。舞なんてもう踊ってないからできないかも。』
「そんなことない。体は覚えているもんだ。」
『歌姫が下手くそな歌と舞をやったら笑われちゃうよ。』
「名前は、いつも綺麗だ。僕が追いかけても追いかけても届かないほどずっと先を走っていて。追いつかないほどいつも凛としていて綺麗だ。なにをしてたって、」
『…ノヴァ、それって告白?』
「はっ!!いいいい、今のはなんというか!事実だけどもああー!僕は何を言ってるんだ!」
『リベルタみたいだよ。』
「やめてくれ!とにかく僕は貴方に認めてもらいたいんだ!隣に立って相応しいような男になりたい…。」
『ノヴァはずっとカッコいいよ。私はね皆がカッコいいから、引っ張って行ってくれるから強くいられるの。だからノヴァのおかげでもあるんだよ。』
「僕の?」
『そう。小さい頃は泣いていたのに今じゃ泣かないで私の話を聞いてくれる。それにもうすぐ身長だって追い抜くし、ずっと前からもう隣に並んでるよ。あとは私が置いてかれないようにするだけ。』
「置いて行かない。もしそうなったら貴方の手を今度は僕が引っ張る。だから、抹茶が美味しいと飲めるようになって、身長をこしたら…。ちゃんと告白する。」
『え、今のは?』
「僕は他の誰でもなく僕が名前を守りたい。何かあった時に助けるのも、手を引っ張るのも僕がいい。それまで他の男を近づけないように守る事にする。」
『答えが出たんだ。』
その問いに頷く。慕う理由はとうの昔から貴方が好きだからだ。だけど今の僕じゃまだまだ足りない。貴方がいい、と言っても駄目だ。だからそれまで今までどおりに側で守り、一番近くに居よう。そしていつか迎えに行く。
「堂々と言うまで待っていてほしい。その時まで名前を振り向かせて見せる。子供扱いなんてさせない。」
『ノヴァはカッコいいね。わかった、じゃあそれまで私もちゃんと考える。でも早くしないと誰かにとられちゃうかもよ。それに年をとるんだから。すぐおばさんだわ。』
「簡単に手だしはさせない。僕が守るんだから安心していてくれ。それに年をとっても綺麗だ。」
『はぁ、たまにそうやってさらりとかっこいいこと言うのがずるいよね。あ、みてみて。これ懐かしくない。昔遊んだオモチャ。』
「そういえば片づけをするんだったな。僕も手伝おう。」
『え、今日はノヴァの日でしょ?こんな事に時間を使っていいの?』
「宣戦布告はしたし、自分の気持ちに気づけた。大収穫だと思う。それにこうやって名前と何気ない時間を過ごすのも大事だ。あと、ジャッポネの道具も気になるし。」
『気にいったのあったら持っていっていいよ。』
「いいのか!」
『勿論。確かジャッポネ以外にもいろんな国の刀があったな。おおう、そんな目を輝かせて。この仮面はリベルタだな。よくわからないのはこっちにおいて錬金術師共にいるか聞こう。』
「洋服はどうするんだ?な、なんだこの露出の激しい洋服は!」
『あー、バーで歌わないかって言われたの。あと潜入捜査用にいいかなと。』
「却下だ。着てまずいものは僕が判断する。いいのでも名前が着ないのはメイドトリアーデたちにあげるなりするのか?子供じゃサイズが合わないし。」
『そうだねぇ。あとはライに聞いてリメイクするとか。お嬢様はルカに聞かないと何とも言えないしね。』
「ルカに比べて名前の部下は万能だな。」
でしょ、と笑顔の彼女にため息が出る。只でさえライバルが面倒だというのにあいつらも面倒に決まってる。プレゼントの包装をとるのも一苦労で途中から名前が歌い動物達が手伝った。その歌がなんだか懐かしくて口ずさむと彼女が嬉しそうにほほ笑んだ。小さい事によく歌ってもらった歌だ、と気付きなんだか複雑な気分になった。早く貴方を守れる大人になれればいいのに。