正しい嘘つき


「何してやがんでィ」

突然聞こえたのは、低い声と刀の鯉口を切る音。

「ええっと……盗撮、ですかね」

にこにこと嘘くさい笑顔を浮かべながら振り返りそう答えると、素早い動きで手首に手錠がかけられた。

「逮捕でさァ」

心底気持ち悪そうな表情をした彼の名は沖田総悟。

年齢、十八。真選組一番隊隊長。誕生日は七月八日。身長一七十センチ。好きなことはサボりと土方十四郎への嫌がらせ。嫌いなことは仕事。わたしが持っている彼の情報を挙げていけばキリがない。基本的なことからそうじゃないことまで。

え?ストーカー?いえいえ、違います。

情報屋、名字名前。人生初の逮捕です。





「ついですよ、つい。好きすぎてやってしまった、みたいな。お兄さんも経験あるでしょう?」
「うむ!君の言いたいことは良くわかるぞ。何しろ俺もそういう経験があるからな!!」
「いや俺はねェ」
「俺もないです」

太陽の光が差し込む真選組屯所、お昼のこと。

上から順に、真選組局長近藤勲、副長土方十四郎、監察山崎退。そう、沖田総悟の保護者の皆様である。

情報屋であるわたしはストーカーと間違えられ、屯所へと連れてこられた。手錠を掛けられ、取り調べ室のようなところで詰問にあっている最中だ。当然このまま捕まる訳にはいかないため、うまいこと局長さんを丸め込もうと努めている。しかしそれがあからさま過ぎたのか、わたしの発言は彼らによって一刀両断されていった。

「……そうですか。でも、局長さんはわたしの言いたいこと分かってくださりますよね」

わたしは自由に動かない手でたどたどしく局長さんの手を握り、上目遣いでそっと囁いた。

「わたしはただ、恋をしているだけなんです」





数時間後、わたしは無事に釈放された。

とあるキャバクラのお姉さんにストーカー行為を繰り返している局長さんはわたしの味方をしてくれ、渋い顔をしていた副長さんも流石に局長には逆らえないらしく、渋々といったような雰囲気で手錠を外してくれた。次はないときつく釘を刺されたが、そんなこと二度とするわけがない。何と言っても、全て嘘なのだから。

全ての真相はこうである。一週間ほど前、わたしは情報屋としてとある人物から依頼を受けた。その内容は沖田総悟について詳しく教えて欲しい、というものだった。個人情報くらいならばある程度は把握していたものの、普段よく行く場所や趣味、交友関係までは流石に知らない。

そんな訳でわたしは沖田総悟を一週間程尾行し続け、ちゃんと調べましたよという証拠写真を撮っていたところ、いつの間にか背後に回り込んでいたご本人様に見つかり、逮捕されてしまったという流れだ。

幸いなことに、わたしは犯罪者として名を知られているわけではない。知る人ぞ知る、というやつなのだ。ここはとりあえず、沖田さんの大ファンでストーカー紛いのことをしでかしたちょっとぶっ飛んでいる女の子を演じておき、局長さんに情状酌量の余地を頂くことで無罪放免を勝ち取った。

最後の最後まで沖田総悟はわたしを訝しげな目で見ていたが、わたしは気がつかないふりをしてやり過ごした。これで万事解決。しかし、何となくまた面倒なことが起こりそうな予感がした。


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