妬けども



直哉さんはいつも突然贈り物をしてくれる。それは食べ物であったり服であったり、はたまたアクセサリーであったりとまちまちだ。ちなみに、どれもゼロの数が馬鹿みたいに多い代物ばかりである。一度興味本位で調べてひっくり返って以来、値段は気にしないことにした。

いつも貰ってばかりでは悪いとお返しを考えたこともあったのだが、好きでやっていることだから要らないと一蹴されてしまった。ふらりと現れては何かをわたしに渡し、感想やお礼をいう間もなく去って行ってしまうのだ。行動理念は謎であるが、貰って悪いことはないのだから、とわたしは素直に有難く受け取ることにしている。

今日もまた直哉さんはわたしの部屋にやってきて、プレゼントを某高級ブランドのロゴ入りの紙袋から取り出した。しかし、いつもと違って彼は部屋のソファに腰を下ろした。

「名前、ちょっと横座って」

驚きの行動をぼんやりと見つめていたわたしを彼が手招きする。ハッとして言われるがまま隣に座ると、彼がわたしをじっと見つめた。何だか居心地が悪い。

「えっと、」
「昨日電話しよった男誰?」
「えっ?」

口を開こうとした途端、直哉さんの冷たい声に遮られる。彼の質問の意図が分からず、思わず聞き返すと面倒くさそうな様子で「誰やって聞いてんねん」とため息をつかれた。

昨日?電話?と記憶を辿り、あ、と気づく。職場の人だ。急な仕事の変更があったとかでわざわざ連絡をくれたのだ。連絡事項だけ聞いて切った覚えがあるので、おそらく数分の電話のはずなのだが。ただ、馬鹿正直に事実を伝えたところで彼の不機嫌は直らないだろう。盗聴でもしているのか、何故かわたしの行動は直哉さんに筒抜けなのである。つまり、彼は電話の相手を知った上でこうしてわたしのことを詰めているのだ。

理由は知っている。彼のつまらない嫉妬だ。多分。直哉さんは基本的にわたしが自分以外の人間と関わることを好まない。嫉妬心があまりないタイプのわたしにはさっぱり理解できないことだが、それだけ愛されている証拠なのだと無理矢理納得していた。

「わたしが好きなのは直哉さんだけですよ?」
「なんやそれ」
「別に、言いたくなっただけです」

話を逸らしてこてんと首を傾げてゆるく笑みを浮かべれば、彼の表情が少し優しくなる。長い付き合いなので彼がわたしのこの顔に弱いことは承知済みだ。

「そういや、何の話でしたっけ?」
「他の男にうつつを抜かすなって話や」
「抜かしませんよ」

パチリと目が合う。どちらからともなく顔を近づけてキスをした。

「あ、そうや。いいもん買うてきてん」
「なんですか?」
「これ」

こんなことでいとも簡単に機嫌が良くなった直哉さんがいそいそとプレゼントの箱を開ける。その中身は可愛らしいデザインのチョーカーだった。わたしが好きそうなものだ。好みなどとっくの昔に把握されている。

「わ!可愛い〜!」
「せやろ?ほんまはふらふら逃げへんように首輪にしたろかと思ってんけど流石にやめといた」
「懸命なご判断に感謝します……」

危機一髪だなと内心ヒヤヒヤしながらお礼を述べると、彼は満足気に笑った。

「髪上げて」

その言葉に、下ろしていた髪を手で一纏めにしてポニーテールの要領で持ち上げると、するりと首に彼の手が回る。カチャカチャと金属音がしたかと思うと、わたしの首に先程のチョーカーがついた。鏡がないので見えないが、直哉さんの表情を見る限り似合っているらしい。彼の甘々判定かもしれないけど。

「お前は俺のもんやからな」

チョーカーと首の隙間に指を通した直哉さんがそう言って目を細める。これじゃあ彼の思惑通り、飼い主と犬じゃないかと不服に思いながら、わたしは彼の胸に飛び込んだ。直哉さんの慌てた声が聞こえる。
従順な犬になんてなってやらないんだから!



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