微睡みの床の上



「もう夕方ですね」
「そうですねィ」

夕方、六時頃。一仕事終えたばかりの私と沖田隊長は後片付けを副長達に丸投げし、屯所への帰り道にある河原へと足を運んでいた。辺りはもう茜色に染まっており、沖田隊長の髪が夕陽に照らされてきらきらと輝いている。

「ここらで休憩していきやすか」
「ん、了解です」

川の近くまで下りると、隊長は適当な場所に腰を下ろした。ほんの少し間を空けて彼の隣に座ると、肩に重さを感じる。それは彼がわたしの肩に頭を預けてきたからであり、じんわりと体温が移るようだった。

「……眠いですか?」
「眠くねェ。疲れただけでさ」

眠くないというものの、沖田隊長の声はいつに増して気だるげで、ぼんやりしているのがよく分かる。ちらりと盗み見ると、彼はわたしの肩に寄りかかったまま瞼を閉じていた。寝息こそ聞こえないが、数分も経てば眠ってしまうだろう。
こういうときの沖田隊長はわたしが何をしても気にしない。本人によると、何よりも眠気が勝ってしまうらしい。そんな彼を猫みたいだとひっそり思いながら、お金をかけて手入れしているわたしよりもさらさらな髪をすっと指で梳かした。指は止まることなく毛先まで流れ、もはや嫌味なほどである。

「……ん」
「あ、嫌でしたか」
「……いや、べつに」
「そうですか」

ぴくりと身体を動かした彼は一言そう言うと、ついに眠ってしまったようだった。わたしの方に先ほどより体重がかかる。この瞬間は、いつもは加減してくれているのだと思い知らされるようで、なんだかふわふわした気分になる。大切にされているみたいでうれしいのか、頼りにされていないみたいでさみしいのか、自分でもよく分からない。
こうやって甘えられる度に、こういうことをするのはわたしにだけなのだと優越感を感じてしまう。人を斬っているときの彼とは似ても似つかないこの穏やかさを間近で堪能できるのは、わたしだけなのだ。

「……名前……」

ふと彼がわたしの名を呼んだ。どうやら寝言のようで、思わず笑顔が浮かぶ。

「夢にまでお邪魔できるなんて、わたしは幸せ者ですね」

左側から感じる心地よい体温にゆっくりと目を閉じ、わたしも隊長の方へと少し体を寄せた。人を斬ったあとだとは思えないほど、二人の間には暖かい空気が流れていた。
もう少ししたら日が暮れる。そうしたら彼を起こして、皆の元へ帰ろう。後片付けを放り出したことを咎める副長の小言を聞きながら夕食をとって、お風呂に入って、縁側で月見酒をするのだ。
ぬるま湯だな、と誰かの声がする気がした。わたしは聞こえないふりをして、ひとときの安らぎに浸ったのだった。



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