eternite fluer


永遠の花




次に目が覚めたとき、私は真っ白な部屋にいた。腕には包帯が巻かれていて、此処が病院であるということは考えるまでもなく分かった。動かしにくい右腕に気を遣いながらふと横を見ると、そこには隊長が私の左手を握り締めたまま眠っていた。

「……隊長」

隊長の方へ体を反転させ、少し左手に力を入れた。隊長の手は、私と違って骨張った手だ。もしや私が起きるまでずっとこうしてくれていたのだろうか。こんなことをするから、私は諦めが悪くなってしまうというのに。

窓を見やると、外は真っ暗で大きな月が輝いていた。意識を失う前のことを思い出そうとするも、隊長が何かを言っていたということしか覚えていない。結局、あれは何だったのだろうか。もう一度聞いても、良いのだろうか。

「……ん、名前……?」
「あ、隊長、」

隊長の私の名を呼ぶ声がし体を起こした途端、私は隊長に抱き締められた。耳元で「良かった……」という言葉が聞こえ、随分心配してくれていたであろうことが窺えた。

「心配、かけてごめんね、隊長」
「謝んじゃねェ。悪ィのは全部俺なんでさァ」

そう言って、隊長は私を抱きしめる腕に少し力を入れた。言っている意味は分からないが、あまりに近すぎるこの距離に私はどうしたらいいのか分からず、一人困惑していた。

「ごめんな。俺、嘘をついてたんでさァ」
「……嘘?」

どういうこと、と隊長から体を離そうとするも、先程よりも力を入れられて顔を見ることは出来ない。こっちを見るなと言われているような気がして、私は大人しく隊長に身を預けた。

「お前が俺のことを好きだってこと、最初から気づいてたがずっと気づいてねェ振りしてた」
「えっ、うそ……」
「そのくせわざと突き放すようなことしたんでさァ。名前のことが嫌いだったわけじゃねェ。むしろ逆で、だからこそ近くにいて欲しくなくて」

至近距離から聞こえる隊長の声はいつも通り淡々としている。しかし、どこかそれはどこか頼りなくて、弱々しくも感じられた。

私が隊長のことを想い続けているように、隊長も私に対して並々ならぬ思いがあるらしい。まだ言いたいことがあったが、私は何も言わず隊長の声に耳を傾けていた。

「……名前を合格させろなんざ言わなかったら良かった」

しかし、私は隊長のその言葉を聞いて思わず声を上げてしまった。

「なんで?なんでそんなこと言うの?私、真選組に入れて良かったって思ってるのに!」
「入ってなかったら、そしたらお前はお前の師匠達と離れずに済んだだろィ。そんな怪我だって、しなかった」

師匠達が天人に捕まり、会うことも出来なくなったとき、一緒にいれば良かった、と一度でも思わなかったのかと言われると答えはいいえだ。しかし、真選組があったから私はそれを乗り越えられた。

「そんなの隊長のエゴでしょう。私は自分でこの道を選んだの。私がしたくてやってるの!」
「それは、そう、かもしれねェけど」
「隊長は私に生半可な気持ちで補佐なんてやって欲しくないからああ言ったんだと思ってたよ」

私と隊長の会話は上手く噛み合わない。私と隊長では幸せの定義が違う。隊長の一つの嘘で、お互い心の内を見せないままだったから気づかなかっただけだ。私の幸せは隊長なしでは得られないというのに。

「でも、違ってて良かった。だって私、隊長のこと、」
「ストップ」

隊長のことが好きだから。私はそう言おうとしたが、言い切る前に隊長に手で口を塞がれた。そしてそっと体を離させられ、久しぶりにちゃんと目が合った。

「……本当に後悔しねェか?」
「しないよ。まだ、隊長のそばにいたいよ」

私がそう答えると、隊長は一歩後ろに下がり、そこにしゃがみ込んだ。ベッドの上にいる私を隊長が見上げるような構図だ。隊長は私の手を優しく握り、私と目線を合わせた。鼓動が、うるさい。

「名前、好きでさァ。ずっと、ずっと前から」
「……遅いよ、馬鹿。私も好き」





それから、二週間が経った。私の怪我は出血量が多かった割に傷口はいたって浅く、痕もほとんど残らずに済んだ。数日前に真選組で退院おめでとうパーティを開いてもらい、今ではいつもと変わらない日常が流れていた。唯一変わったのは、私と隊長の関係だけだ。

「あ、名前ちゃん。沖田隊長とはどう?」
「うーん、あんまり変わんないかも。でも、前より楽しいよ」
「そっかそっか。それなら良いんだ」

相変わらずザキ先輩は私と隊長のことを気に掛けてくれていて、私が嬉しかったことなどを話すといつも良かったね、と笑ってくれる。しかし、隊長は何やらそれがお気に召さないようで。

「なーに呑気に喋ってんでィ。今から見回りだぜ」

などと言って、ザキ先輩との女子トークから無理矢理連れ出されることが増えたのだ。どうせ、見回りなんてしないのに。とはいえ、隊長との見回りは一番好きな仕事である。

「続きはまた今度ねザキ先輩!」

私はそう手を振り、隊長の方へ駆け出す。ザキ先輩の「いってらっしゃい」という苦笑混じりの声を背中で聞きながら外へ向かった。隊長の横に並び腕を取る。

「ねぇ隊長」
「なんでィ」
「ううん、何でもない!」

願わくば、この幸せがずっとずっと続きますように。

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