eternite fluer


すきなひと




「うーん!美味しい!」

幸せそうにパフェを頬張る、淡い色をした髪をふわふわと風に靡かせた少女。

「だろ?此処のパフェは銀さんのイチオシなんだよ」

それを優しい眼差しで眺める、これまたふわふわの銀髪頭の青年。

「ほーはんはー」
「口ん中入れ過ぎ」

まるで兄妹のようにも見えるこの二人だが、実際のところはただの甘い物好きの茶飲み友達である。

少女の名は名字名前。わずか十六歳にして、真選組一番隊隊長補佐という大層な肩書きを持っている。小柄で華奢な見た目からはとてもじゃないが想像出来ない。今日は非番のため淡い色の可愛らしい着物姿だが、普段は黒い隊服に身を包み、紅色の愛刀を腰にさげている。

「……そんで、最近どーよ。仕事うまくいってんの?」
「んーとね、昨日討ち入りに行ってきたよ。鬼兵隊の傘下とかいう、何とか党ってトコ」

銀時のいつもの質問に、名前はパフェにのったさくらんぼを口に含みながら少々際どい話を始めた。名前が見た目に似つかわしくない討ち入りという言葉を口にした為か、近くを通っていた人々が怪訝な顔で振り向く。それを見た銀時はごほん、と一つ嘘くさい咳払いをした。

「名前ちゃんさぁ、そういうのって企業秘密とかじゃねェの?」
「んー、よく知らないけど良いと思う。だって銀ちゃんだし!」

銀時は名前を軽く窘めるも、そんな様子を気にすることもなく彼女は明るく笑った。名前が何を根拠にそんな事を言っているのかは全くもって不明だが、正直悪い気はしない。なんてことを考えていた時だった。

「いくら旦那でも、そこまで言っちゃあ駄目ですぜ、名前」

突然声がしたかと思うと、栗色の髪を持つ少年が名前の後ろからすっと現れた。その声を聞いた瞬間、名前はぱあっと顔を輝かせる。

「隊長!!」

座席から立たずして器用に振り返った名前は、隊長と呼んだ少年に抱き着いた。彼の細腰に腕を回し、ぐりぐりと顔を埋める。

「オイ、くっつくんじゃねェって言ってんだろィ」

そんな名前の手を冷たく払い除けたのは真選組一番隊隊長沖田総悟。つまり、名前の直属の上司にあたる人物だ。

「ねぇ隊長、どうしてこんな所にいるの?もしかして私に会いに来てくれたの?」

きらきらと期待に目を輝かせながら上目遣いで問いかける名前。しかし、沖田は無慈悲にもはいはい、と軽く受け流す。

「おっと、忘れる所でした。ちょいと旦那に伺いてェ事がありやしてねィ」

沖田はそう言って、銀時に話を始めた。しかし、名前はそんな沖田に少しも怒ることなく、なんだ〜銀ちゃんにか、と素直に残念がっている。

銀時にとって、名前は年の離れた妹のようなものだ。名前に冷たい態度ばかりとる沖田を見ると正直良い気はしない。それが、どこかわざとやっているように見えるから、尚更。

「あのさァ、もうちっと名前に優しく出来ねェワケ?」

いつも、こんな風に冷たい対応をされている名前が可哀想で仕方ない。そんな思いから、つい出てしまった言葉だった。しかし、そんな銀時に沖田は呆れたように溜息を吐いた。

「……あのねェ、旦那。俺と名前はただの上司と部下の関係ですぜ?それなのに、どうして優しくする必要があるんでさァ」

沖田のその言葉からは、何を言っているのか全くわからないとでも言いたげな様子が伺える。いや、正確にはそう言っていると見せかけている、というのが正しいような気がするが。とはいえ、そこまで言われてしまうと銀時には返す言葉もない。

「それは、そうだけどよ……」

銀時が曖昧に言葉を濁すと、名前は二人の会話に銀時を庇うように口を挟んだ。

「銀ちゃん、私全然大丈夫だよ?だから心配しないで、ね?」
「名前……」

切なげに銀時が名前を呼ぶと、名前はとびっきりの笑顔を浮かべた。

「そりゃあ、もっと隊長とお話したいなぁ、とか思う時もあるけど、私は隊長の傍にいられるだけで幸せだもん」

名前はそう言って、へらっと笑った。そんな健気な名前を見る度、また心が痛む。とは言っても、銀時と名前は名前が幼い頃からの知り合いだ。今の名前の笑顔に嘘偽りが無いことくらいは簡単に分かった。

それが余計に銀時の沖田への苛立ちを大きくさせた。

prev | back | next
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -