せんぱい、つらい、すきっていいたいんです
ああ、かたおもいってほんとうにつらいなあ

どうせ誰にも見られないだろうと、廊下を歩いている時に教室に誰かいることに気づいた
整った顔立ちの女の子は、ただ窓際の席から外を見つめていた
無表情で、何を考えているかはよくわからなかったけど、なんとなく悲しいのかなと思った
ゆっくりと近づく
机がガタッと音を立てた
滅多にこんなことはないのに、どうやら私は人に見られる状態になっているらしい

「誰?」

整った顔立ちだが無表情な彼女がこちらを見た
瞳が微かに潤んでいた
キラキラと輝くそれはまるで宝石のようで、私は見蕩れてしまった

「私……鈴と申します」

深々と礼をすると、彼女は笑った
初対面にしてもかしこまりすぎていると彼女に指摘された
無表情だった彼女が笑っているところを見れて、すごく嬉しかった

「鈴ちゃん、私に何か用だった?先生に頼まれ事したとか…」

「そんなんじゃなくて!!ただ、せんぱいとお話したくて…」


彼女は快く了承してくれた
少しずつ実体化できるようになった私は放課後に彼女とお話をした
上手く友達が作れないこと、素直になれないこと、表情が乏しいこと、なまえせんぱいはたくさん悩みを打ち明けてくれた嬉しかった

そんなある日、変化が起きた
私はいつもどおり、なまえせんぱいに会いに行った
でも、話すことができなかった
何故なら、私は実体化できなくなってしまっていたから
突然の始まりだ、突然終わることも当然あると思っていた
それでも、私はまた受け入れられなかった
毎日、せんぱいは私を待っていた

そんなことが1週間続いた
せんぱいは誰もいない教室でいつもの席に座っていた
その目からはぽろぽろと涙が零れ落ちていた

私じゃ、涙を拭ってあげることもできない
せんぱい、私ここにいるよ
お話したいことがまだたくさんあったんだよ

どうして、私が見えないの?





ある雨の日、窓際を見つめるなまえせんぱいはどこか憂鬱そうだった
近くに座っている女子たちが怪盗キッドについてきゃあきゃあと騒いでるから煩わしいんだろうなと思った

「みょうじさんも怪盗キッド好きなの?」

名前はたしか、黒羽快斗さん。クラスでも活発な方だと思う
なまえせんぱいはすぐに教室から出て行ってしまった
しばらくしたら、なまえせんぱいは快斗せんぱいと付き合っていた
なまえせんぱいが見せる表情は、見たこともないくらい可愛らしかった
ああ、快斗せんぱいがなまえせんぱいを変えたんだ
私にはできなかったことを快斗せんぱいはやったんだ

そんな時、なまえせんぱいと同じクラスの小泉紅子さんが私に話しかけてきた
霊感があるらしい彼女は私に最後のチャンスをくれた


「初めまして、快斗せんぱい
 私は鈴と申します。」

「紅子から聞いた
 幽霊の噂は本当だっただな」

「はい、それでせんぱいにお願いがあってきました
 私はなまえせんぱいと最後にお話しをしたいんです。
 想いも告げたい。その許可をくださいませんか?」

「なまえもきっとお前に会いたがってるよ。」

「そうだといいですね
 快斗せんぱい、もしなまえせんぱいと本気で付き合っていなかったら別れてください」

「俺にはなまえしかいない」

「本当になまえせんぱいのこと幸せにしてくださいね」

「当たり前だろ」


私は快斗せんぱいに背を向けた

「さようなら、快斗せんぱい」






下駄箱に手紙を入れると、中庭でせんぱいが来るのを待った
せんぱい、私を見たら驚くかな、怒るかな
もしかしたら、忘れているかな

足音がして振り返るとせんぱいがいた
会いたくて話したくてたまらなかったせんぱいが、私を瞳に映していた

「なまえせんぱい、来てくれてありがとうございます」

「えっと……」

「私、なまえせんぱいのことがすきなんです」

初めて会う人のような態度をとるせんぱい、きっと私のこと忘れちゃったんだろうな
少し悲しかったけど、それでも今話せていることが嬉しかった

「報われないことは分かってるんです
 でも、どうしても伝えたくて……
 それで快斗せんばいにも許可をいただきにいったんです」

「嬉しいけど……ごめんなさい」

「分かってたからいいんです
 なまえせんぱいの綺麗な瞳に一瞬でも私が映ったことだけでも十分です」

「私のこと好きになってくれて、ありがとう
 でも、きっと私はあなたが思ってるように素敵な人じゃないから
 さっきまで、私あなたに嫉妬してた
 快斗に告白したと思ってたから。
 あなたのこと憎くて、ここに来たんだよ」

なまえせんぱいは、私に嫉妬してくれていたらしい
それくらいに快斗せんぱいのこと好きなんだ

「なまえせんぱい、本当に快斗せんぱいのこと好きなんですね
 本当は快斗せんぱいになまえせんぱいと本気で付き合っていなかったら別れてくださいって言ったんです
でも、“俺にはなまえしかいない”って」

「………私もそうなの
 私には快斗しかいない」

「安心しました。私はやっと成仏できる」

「え?」

せんぱいに想いを告げてから私の足元は微かに透け始めていた
せんぱいもそれに気づいたようで、私の足元に目を向けていた


「私、死ぬ前に好きなせんぱいがいたんです
 でも、想いを告げることかできなかった
 それで何年もこの学校に縛られてきた
 そんな時、なまえせんぱいに出会いました
 同じ女の人なのに、全く違う生き物に見えた
 綺麗だと思った…また私は深く学校に縛られてしまったけど、それでも良かったんです」

覚えていてもらえなくたって、それでいい
あの時の私たちは嘘じゃなくて、本物だから
私が今でも鮮明に覚えている

なまえせんぱいは私に一つ優しい嘘をついた
私の事、覚えてくれていた
でも、知らないふりをしている
それは、また私がここに縛られてしまうかもしれないから


「本当にやさしいんですね、せんぱいは」


透け始める私を見て、せんぱいの目からは涙が零れ落ちていた
そんなことに気づかず、せんぱいはじっと私を見つめた

「ばいばい、せんぱい」

消える直前でせんぱいの声が聞こえた気がした






「さようなら、鈴ちゃん」