うちの学校にはある女の子の霊が彷徨っているなんていう七不思議があった
好きな人に告白できず、今も片思いのまま、彼を捜している
そんな切ない恋物語を昔、仲良くしていた後輩から聞いた
彼女は突然姿を消してしまい、色んなクラスを捜してもその後輩が見つかることはなかった




「………好きなんです」

快斗を捜して、中庭を歩いているとそんな声が聞こえた
ここは告白スポットの一つだし、邪魔しないうちに離れようとくるりと来た方へ歩き出した

「快斗せんぱい」

よく聞く名前が聞こえて、私は歩くのを止めた
告白されているのは私の恋人の快斗だった
青子ちゃんは隠そうとしていたが、快斗がよく告白されていることは知ってた
快斗は私にもったいないくらい素敵な人だから、好きになるのは分かってる
でも、もやもやしてしまう
吹っ切れたはずの、黒いものが少しずつ漂い始める

私は目をゆっくりと閉じて、同じくゆっくり目を開いた
大丈夫、まだ大丈夫。
言い聞かせながら、また歩き出す

汚くないと快斗に言われても、私はこの感情を快斗に知られたくなかった。




放課後、下駄箱に1通の手紙が入っていた
最近はこういうことなくなっていたのに…(主に快斗のおかげで)
封筒に書かれた可愛らしい字に私は嫌な予感がした

中に入っている手紙には放課後中庭で待っていると書かれていた
私は手紙を鞄に入れて、中庭に歩き出した
きっと、快斗に告白していた子だ

中庭につくと、予想通りの女の子が立っていた


「なまえせんぱい、来てくれてありがとうございます」

「えっと……」

「私、なまえせんぱいのことがすきなんです」

私は目を丸くして、目の前の女の子を見つめた
頬を赤く染める彼女はどうみても冗談を言っているようには見えなかった

「報われないことは分かってるんです
 でも、どうしても伝えたくて……
 それで快斗せんばいにも許可をいただきにいったんです」


私が見た光景は、どうやらその時らしい
黒くもやもやしていたものが一瞬で散った
それと同時にある記憶がよぎった
私は彼女を知っている

「嬉しいけど……ごめんなさい」

「分かってたからいいんです
 なまえせんぱいの綺麗な瞳に一瞬でも私が映ったことだけでも十分です」

「私のこと好きになってくれて、ありがとう
 でも、きっと私はあなたが思ってるように素敵な人じゃないから
 さっきまで、私あなたに嫉妬してた
 快斗に告白したと思ってたから。
 あなたのこと憎くて、ここに来たんだよ」

そういった私を今度は彼女が目を丸くして見つめていた
ポカンとした後、ほわりと微笑んだ
その笑みはどこまでも穏やかなものだった
あの時と変わらないまま

「なまえせんぱい、本当に快斗せんぱいのこと好きなんですね
 本当は快斗せんぱいになまえせんぱいと本気で付き合っていなかったら別れてくださいって言ったんです
でも、“俺にはなまえしかいない”って」

「………私もそうなの
 私には快斗しかいない」

「安心しました。私はやっと成仏できる」

「え?」


彼女の足元を見ると、微かに透けていた


「私、死ぬ前に好きなせんぱいがいたんです
 でも、想いを告げることかできなかった
 それで何年もこの学校に縛られてきた
 そんな時、なまえせんぱいに出会いました
 同じ女の人なのに、全く違う生き物に見えた
 綺麗だと思った…また私は深く学校に縛られてしまったけど、それでも良かったんです」

彼女の告白はきっと、私だけではなく生前に好きだった先輩にも伝えたかったものだったんじゃないかと思った

ばいばいと涙を流しながら笑うその子は誰よりも綺麗だと思った
もっと私はあなたといたかったなんて言ったら、きっとまた彼女をここに縛り付けてしまうから

「本当にやさしいんですね、せんぱいは」

どんどん透けていく彼女見ていた
それがなくなる頃には私の目からは大量の涙が零れ落ちていた


「さようなら、鈴ちゃん」