「夏祭り?」

青子ちゃんに帰り道の別れ際にお祭りに行かないかと誘われた
快斗は今日、夜に盗みに出るみたいだから急いで帰ってしまった


「今夜あるんだって、そこに怪盗キッドがくるみたいでね!
 なまえちゃんも行こうよ」

「うん、いいよ」

「決まりね!じゃあ、浴衣で着てね」

「浴衣か……多分あると思う」

「19時に〇〇駅で待ち合わせね」

「うん」


いつもの曲がり角で青子ちゃんと分かれる
浴衣なんてしばらくきてないな
突然だから、急いでお母さんに知らせなきゃ
珍しく、今日お母さんの帰りが早いので着付けはしてもらえるだろう






19時に指定された駅前に着くと、青子ちゃんもちょうど着いたらしく、無事に合流できた
人が多いから、会えなかったらどうしようと少し心配していた


「みんな浴衣なんだね…」

「浴衣だったらすぐに変装できないだろって、ここに見に来る人はみんな浴衣なんだよ
 お祭り会場だから、違和感はないけどね」

「そうなんだ」

「なまえちゃんの浴衣可愛いね、水色の紫陽花だ!」

「青子ちゃんは朝顔なんだね、可愛い」


お互いを褒めまくったところで、屋台を回り始めた
その時、スマホが震えた
青子ちゃんに声をかけて、人ごみを抜け出して、スマホを確認すると快斗からメールがきていた


「え?」


添付されていたのは私と青子ちゃんの写真で、件名には青子から送られてきただった
青子ちゃんがきっと……自慢げにメールをしたに違いない
文面を見る限り、機嫌が悪そうだ
今、怪盗キッドとして活動しなきゃだし私のところにはきっと来れない


「快斗からメールきてた?」

「もー、青子ちゃん勝手に送ったでしょ〜!」

「可愛いなまえちゃん連れてるの快斗に自慢したかったの〜」


二人で少しじゃれついてから、はぐれないように手を繋いで人ごみに戻った
青子ちゃんと一緒に来れたのも嬉しいけど、快斗も一緒に来れたらよかったのになと少しだけ思った


「今回の怪盗キッドの狙いって何なの?」

「なんだったっけ……青色の宝石だったかな……」

「青い宝石か…」


今度こそ、快斗が探している宝石がありますように
そっと心の中で手を合わせた


「わー見て見て
 おもちゃの指輪だ」

「懐かしいね、私昔よく集めてた」

「こっちのはペアリングかな、可愛い〜」

「お揃いで買う?」


青子ちゃんが見ていたペアリングはプラスチック、宝石の部分も嘘くさい輝きで100均で売ってそうなものだったけど、昔は本物の指輪のように見えたんだろうな



「せっかくだし、かお!」


大人用のサイズもあったため、2人で色違いのものを買った
私は緑の石、青子ちゃんは青い石
私はあともう一つの指輪を買った
二人でつけて、なつかしい気分になった
ああ、懐かしいな


指輪を見つめながら歩いていると、青子ちゃんの姿が見えないことに気づいた
迷子だ
青子ちゃんにLINEを送るけど、既読が付かない
途方に暮れていると、うさぎお面を付けた人が私の目の前で止まった


「お嬢さん、迷子ですか?」


声を聞いて、思わず笑う
間違えようのないくらい毎日聞いている声だったから


「うさぎさん、迷子になってしまったんです
 私を友達のところまで送り届けてくれませんか?」

「仰せのままに」


そういうと快斗はお面を外した
仕事は終えたあとらしい
周りを見ると、少し人気がなくなった気がする
みんな帰り始めてるんだ


「青子にさっき会った
 先帰るってさ」


きっと青子ちゃんは気を遣ってくれた
快斗は私の手をそっと握った
でも、指輪に気づいたみたいで顔を歪ませた


「青子ちゃんとお揃いなんだよ」

「……どこで売ってた?」

「あっちのお店」


快斗は私にうさぎのお面をつけると私の手を引いて歩き出した
その足取りは確実にさっきの指輪のお店に向かっていた
快斗はじっと見た後、お店のおじさんにお金を渡した
何を買ったのが確認できないまま、また歩き出した


人気のなくなった公園のベンチに座ると快斗が私の右手の薬指に指輪をはめた
プラスチックではなくて、鉄?の指輪だった
そういえばそんなのも売ってたなあ
まるで、婚約指輪みたいだ


「左手には将来、買うから」

「じゃあ、待ってるね…」


そういって、私も快斗の右手の薬指に指輪をはめた
快斗は目を見開いていた
さっき買ったもう一つの指輪は快斗へのものだった
快斗が私に買ってくれたデザインとよく似てて、思わず笑ってしまった


「今度は2人で花火大会行こうね」


そういうと快斗は優しく微笑んでくれた