■ 桜の下の嘘と確信D

「それでどうなの博士…
 あの3人の中にあなたが見た犯人はいる?」

「ウーム…
 あの杖をついた老人が怪しいが、犯人が持っていたのは30cmぐらいの細い棒で杖じゃなかったし…
 犯人が被ってた帽子も登山帽のようじゃったし…
 咳もしていなかった」


3人の様子を見ながら、博士はジョディさんの質問に答えた
哀ちゃんが「風邪をひいているフリをしているだけかも…」というと新一がそれを否定した


「それはねーよ!
 俺達と博士が知り合いだなんてあのおじさんが知ってるわけないから…
 俺達の前で風邪を引いているフリなんかする必要ないだろ?」

「じゃあ歩き方は?」と再びジョディさんが質問するも、犯人と同じような歩き方をしている人はいないようだった


ふと、誰かの視線を感じて振り返る
白い傘をさした女性がいた
お腹が膨らんでいて……妊婦さんかなと思った
その女性は私をじっと見つめた後に背を向けて歩き出した


「え」


何かが引っ掛かる


「哀ちゃん、ごめん
 私トイレ行ってくるね」

「ちょっと名前!」


走って追いかけるとなんとか追いついた
「待って!」と女性の腕をつかもうとすると、逆に腕をつかまれた
驚いて怯む


「……あなたベルモット?」

「……よくわかったわね
 あなたの勘の良さは良いところでもあるけど、悪いところでもあるわね」

「何をしているの?」

「あなたの監視よ
 最近、ジンが敏感になっているから……
 それに……」

「それに…?」


ベルモットは、なんでもないわと言うと私の腕を離した
何か隠している
その時、感じたことがないくらいに強い視線を感じた
冷たくて、鋭くて……私を殺そうとしているような

振り返っても誰もいない
気のせい?
最近、こういうことが続いている


「名前……あなたしばらく単独行動は控えなさい」

「え?」

「言う通りにして、お願い」

「……わ、分かった」


ベルモットが今までにないくらい必死だったので、私は思わず了承した
すると、私の手を引いて歩き出した


「あのボウヤたちのところまで送るわ」

「え?うん」


何かがおかしい
何が起きてるの?


「名前、遅かったわね……ってその人は?」

「哀ちゃん……あの…」


すると風邪を引いた人が急いでこっちに向かってきた
どうやら、この人の奥さんだったらしい

でも、中身がベルモットのはずだけど……この人は本物?


「ちょっと具合悪い時に助けてもらったのよ」

「そうか、ありがとうございます」

「いいえ…!」


その時、ベルモットがフラッとよろめいた
近くにいたジョディさんが倒れないように支えた
つわりかな……でも、つわりって……

夫婦はそそくさと帰って行ってしまった


「……新一、話があるの」


小声で新一に言うと、新一はコクンと頷いた








「仔猫ちゃんからいい話は聞けたのかしら?」

「ええ……大収穫でした
 意外な裏話も聞けましたしね」

「その話のオチ…ちゃんと聞かせてくれるんでしょうね?」

「ええ…確証を得たら、すぐに…
 でも、これだけは言っておきましょう
 恐ろしい男ですよ…あの少年は」

「………そう
 それよりもあの男は見つかったの?」

「……まだ見つかっていません
 でも、この町には戻ってきているようです」

「……まあ当然でしょうね
 あの男は……
 また何かあったらすぐに知らせて」

「分かってますよ、そのかわり……」

「分かってるわよ
 あなたの気が済むまで協力してあげる」


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