■ 真実は誰かの手で暈される@

“お母さん、お父さん、どこに行くの”


その言葉には、行かないでという意味も籠っている
どうしてわかるのか、これは私の記憶だからだ


“名前、お母さんとお父さんね
 急にお仕事入っちゃったの
 今日は新一くんのお母さんたちのところでいい子にしてるのよ”

“うん、わたしいい子でまってるからはやくかえってきてね!”


行かないでお母さん、お父さん!
私を置いていかないで!


「……夢か」


お母さんたちが事故に遭う前の夢だ
仕事に行く途中でお母さんたちの乗った車は事故に遭った
色々説明を受けた気がするけど、あの時の私はまだ幼くてよくわからなかった

覚えているのは、車が崖から落ちて、その際に車が爆発したということだ
死体は燃えて、確認できる状態ではなかったようで、私のもとに連絡が来たのは数日経ってからだった
組織に明け渡されるまで、有希子さんが面倒を見てくれた
娘ができたようだと言われて、私の心は救われていた

その数か月後に中学生となった私は、一人暮らしを始めた
お母さんたちがお金を残していてくれて、生活はなんとかなった

でも、すぐにジンたちがやってきて、私は住んでいた場所から離れなきゃいけなくなった


「ずいぶん、うなされていたようだったが…」

「赤井さん……両親が事故に遭う前の夢を見ました…」


赤井さんの表情が少し歪んだ
赤井さんはお母さんたちのことを知っている
それを私に言わないのは、私を心配してか、聞かれたら困ることがあるからなのか
きっと両方だ


「いつか話そうと思っていた
 キティたちの死のことを俺は詳しくは知らない
 でも、知っていることはすべて話す」

「赤井さん…」

「すまない、君が知りたがっていることは分かっていたが…」


私の手の上に赤井さんの手が重なった
ぬくもりが伝わってきて、ひどく安心した


「…分かってます
 赤井さんは優しいから、私のために黙っていてくれたんですよね」


赤井さんは私の腰に手を回し、引き寄せた
咄嗟のことで驚き、赤井さんをじっと見た

少し重たい空気が流れる
それには緊張感も一緒に流れていて、私は唾を飲んだ



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