あなたの色に染まる 番外編 | ナノ
沖矢昴、最後の日


「……その、赤井さん」


「なんだ?」


「赤井さんはもう、沖矢さんの姿になることはないんですよね…?」


「?
 ああ……」


組織が壊滅した
つまり、沖矢さんの姿になる必要がない
そんなの分かり切ったことなのに、わざわざ聞いてしまうのは少し寂しいからだろう

中身が赤井さんだとしても、私にとっては沖矢さんは沖矢さんだった
私は沖矢昴という存在にも恋をしていたのだ


「最後に一度だけ、沖矢さんになってもらえませんか……私ちゃんと“沖矢さん”にお別れをしたいんです」


「……分かった」


赤井さんは頷いて、部屋に入っていった
私はリビングのソファーに座って待つ

しばらくすると、ガチャッと部屋のドアが開く音がして、私は立ち上がる
振り返ると、そこには“沖矢さん”がいて、私はゆっくりと沖矢さんの前に立つ


「私、沖矢さんのこと大好きで、私にとっては沖矢さんは沖矢さんだったんです」


頑張って笑ってるのに、涙が止まらない
うまく笑えてない、きっと今ひどい顔だ


「沖矢さんは私が一番つらいときに傍にいてくれて……感謝してます
 大好きです、これからもずっと……」


ガバッと抱きしめられて、驚いて目を見開く
沖矢さんは小さな声で言った


「……ありがとうございます
 僕もあなたのことがこれからもずっと好きです」


「……沖矢さん、最後にキスしてください」


そういうと、沖矢さんは私に優しくキスをしてくれた
優しいとこは赤井さんと全く変わらない

沖矢さんのこと大好きだった


私は顔をあげると沖矢さんの顔の変装をビリッと音がしそうなくらい勢いよく剥がした
赤井さんは驚いたような顔をしていたが、すぐにいつも通りの顔に戻った


「ありがとうございます、赤井さん」


「……ああ」


「沖矢さんと赤井さんは同じで……
 結局、私が好きなのは“赤井さん”なんだなって……思います」


上手く言えないですけどと笑うと、赤井さんは「わかる」と言ってくれた


「俺も似ているものを好きになったことがある
 最後には何が一番に大切なのか分かった」


「……沖矢さんは赤井さんなんですね」


改めて確認するというよりは、自分に言い聞かせているようだった
私が好きになったのは赤井さんだ

沖矢さんと赤井さんを別に分けていたとしても、同じだ

沖矢さんの中身が赤井さんじゃなかったら、私はきっと沖矢さんのこと好きにならなかった


「俺は俺だ」


「そうですね、私も私です
 私は母に似ていても、私です」


「そうだな」



私は組織と関わって生きてきた
それがなくなって、どう生きていけばいいのかなんてわからない
ただ、赤井さんの側にいられればそれでいい



「……さよなら、沖矢さん」

ぽつりとつぶやいた言葉は赤井さんの耳にもきっと届いてたはずだ


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