あなたが選ぶ未来
私は死ぬ前にどうしてもしたいことがあった
最初で最後のタイムスリップだった
大学の学食を食べている私と零
あの時の記憶だ
「零は、未来と過去に行けるならどっちがいい?」
「何だよ…いきなり」
「なんとなく、気になったの!
だから、教えて」
「未来かな、過去を振り返ってても意味ないだろ」
「あはは、零くんらしいね」
「なまえは?」
「私は未来でも過去でもなく、現在かな」
選択肢にないものを言うと、零くんは「選択肢にないだろ」と笑った
「でも、本当のことだから。それに、零は現在って選択肢があっても選ばないと思う
私は過去でも、未来でもなく、今を大切にしたいの
私には今しかない」
「え?」
「零はどんな時でも、未来を選んでね
未来だけを見つめて、立ち止まらないで」
「なまえ……」
「私が零の未来を守るから」
零が私に言ってくれたこと全部、私も言いたかった
:
:
:
零への手紙をポストに入れると、私はポストに呟いた
「さようなら」
スコッチが死んだビルへ向かう
私は死ぬならあそこだって決めていた
あと数年でとり壊されるらしい
死ぬのは怖い
私は今まで何度も感じてきたことだ
誰にも私の気持ちは理解できない
自分の物語を自分で終わらせることの幸せを
好きな人を想いながら、死ねる幸せを
こんな私を人は人格破綻者とも呼ぶのだろうか
「やっと終われる」
何度も繰り返されたこの世界を
「ああ、怖いなあ
死んだらどうなるんだろ
地獄に落ちるのかな」
ジャリっと誰かが砂利を踏む音がして、振り返ると零くんが立っていた
← | →