初めての我儘
ある日、零くんの友達から海に行くという話を聞いた
そうなんだと笑って返すと、なまえちゃんも行く?と誘われた
ごめん、その日用事あるんだと言うと、そっかと残念そうに言われた
夢を見た
零くんが海で溺れる夢だ
運動神経がいい零くんがゆっくりと沈んでいく
私はただ見ていることしかできない
「れ、れいくん!」
朝目覚めて、急いで零くんに「海に行かないで!」と抱きしめて、言う
私は震えているのがばれないように、頑張った
震えないで、お願い
「どうしたんだ?なまえ」
「お願い、そしたら、すべてうまくいくから…!」
私がこの言葉を零くんに初めて言ったのはこの時だった
零くんは私の我儘に近い言葉に驚いていた
私は今まで零くんに我儘を言ったり、駄々をこねたことがなかった
私は零くんに従順だった
「……別に海くらい…」
零くんはどうしてそんなことを言うのかという顔をしていた
私は零くんに死んでほしくない一心で止めた
最後には零くんは諦めたように分かったよと言った
零くんは後日、友達から見せてもらった海の写真を見て、「行きたかったなあ」とこぼしていた
私はまたそれを気づかぬふりをした
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