本と恋
「安室さん、最近元気ないね」
「コナンくんこそ、少し元気ないように見えるよ」
「買ってた小説の作者が死んじゃったらしいんだ
最終巻を書き終えてから死んだから…話は最後まで読めるけど、悲しいなあって」
コナンくんは心から悲しんでいるようだった
推理小説か、何かだろうか?
この子はそういうことが大好きみたいだからな…
「どういう話なんだ?」
「少しSF風の小説で……主人公が恋人を守るためにタイムスリップして、色々やるんだけど、結局だめだったんだ……それで最終巻で恋人とどうなるかって感じだったんだ」
「君は推理小説とかを好んで読むと思っていたよ」
「その本を知り合いに勧められてね、読んでみたら…結構ミステリーな感じで妙にリアルなんだよね」
ポアロのバイトの時間が終わり、車を停めている駐車場まで歩く
ふと、コナンくんの言っていた本が読みたくなった
本屋に寄ってみると、4巻ほどあるらしい
なかなかに高めなそれを会計へ持っていく
なんとなく、本を読みたい気分だった
作者は、入谷ふれ(いるやふれ)
本についている帯にも書いている通り、新人でこの本『return(リターン)』がデビュー作らしい
プロフィールにも特に書かれておらず、作者はかなりミステリアスな人だと思った
本を開くと、なぜか眩暈がして、目の前が真っ暗になった
まただ、また、この感じだ
「零は警察になるの?」
また教室だ
でも、さっきとは違って、夕暮れだった
「零ならきっとなれるよ」
穏やかに笑うなまえに俺は胸が苦しくなった
この甘酸っぱい感情は、恋だろう
「なまえ、好きだ」
「私も好きだよ、零くん
私、零くんのためなら何でもできる」
俺はなまえを抱きしめた
なまえが背中に手を回した時、少しだけ、服の肩のところが湿った気がした
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