想い出 | ナノ

手紙


俺には数年前に大切な恋人がいた
組織に潜入する際に別れた
それからは彼女とは会っていない


共有の知り合いからなまえが自殺したと聞かされた
ひどく、心がざわめいた

最後に見た彼女の無表情が一瞬だけ崩れた時に見えた苦しそうな表情が頭を過った

彼女は優しい人だった
でも、時々、少しだけ身勝手な発言をすることがあった
俺はそれによく振り回されていた

それも別れを告げた原因の一つだ


郵便受けを見ると、可愛らしい封筒が入っていた
名前は書いていなかった

筆跡には見覚えがあった
中には何枚かの手紙が入っていて、

『零くんへ
 お久しぶり、急に手紙を送ってすみません
 元気ですか、お仕事順調ですか?
 私は、順調です

 私、遠いところに行くことになりました
 零くんにどうしても言いたいことがあって、今回は手紙を送りました

 私は、未来を変えたかった
 でも、だめだった
 零くんを苦しませたくなくて

 それが、零くんにとって、お節介だったのは分かってた
 それでも、やらずにはいられなかった

 それをずっと謝りたかった

 ごめんなさい

 私は零くんのことが今でも好きです
 きっとこれからも好きだと思います

 零くんは、私の事を忘れて幸せになってください
 
 零くんはもう大丈夫だよ、安心していい
 零くんの仕事も上手くいくから

 私はやっと安心して、遠いところにいけます
 ありがとう、零くん

 さようなら

 みょうじなまえ』



なまえからの手紙は少し不気味だった
少しどころか、かなり不気味だった

切手はなまえの命日、つまり死ぬ前に出した
遠いところっていうのは、多分あの世のことだ

安心して?仕事?
なまえに公安の仕事について、喋ったことはない


俺の中でもやもやとした中かが渦巻いた
それを晴らしたくて、シャワーを浴びてすぐに布団に入った






良い匂いで目が覚めた
1人暮らしのはずなのに、なぜ?

「零くん、おはよう」


そこには、セーラー服を着たなまえが立っていた
訳が分からず、目を丸くしていると、なまえが「遅刻するから早く着替えてきてね!」と部屋を出ていった


「どういうことだ?」


ベット横のカレンダーを見ると、2004年の7月21日だった


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