想い出 | ナノ

君の世界は歪んでいる


「零くんはたまに生きてるってあほらしいことだと思わない?」


なまえは笑う
その表情は少しも笑っていなかった
口角は時々ピクッと動く


「私はいつもそう思ってるよ
 嫌な事も全部受け入れて、誰でもペコペコして、嘘の表情を張り付けて、利用されて、捨てられて」


俺は素直にこの時のなまえを気持ち悪いと思った
表情は抜け落ちたように無くなっていて、声も淡々としていた

まるで、別の誰かと会話をしているようだった


「零くんには一生分からないだろうね
 私みたいな生きる意味を失った人間のことなんて」


…………おれは何もしていない

なんとなく、責められたような気がして、心でそう唱えた


「零くんはいつだって他人事なんだよ
 私が悩んでたって、苦しんでたって、関係ないって思ってる」



「なまえ…」


名前を呼ぶと、なまえの表情が少しだけ変わった気がした
それでも、まだ無表情だった


「ありがとう、零くん
 さようなら」


俺は、このお礼の意味を知ることはなかった



× |