漆黒の特急D


「なまえくん、哀くんは…」

「あ、博士
 哀ちゃんは疲れて寝てしまったみたいです」

「そうか」


博士は哀ちゃんとおぶって、子どもたちとベルツリー急行を降りて行った
私は眼鏡と帽子を深くかぶって、博士たちを追うように降りる
バーボンに私がいたことをバレるのはまずい気がした


「……なまえ」

「ベルモット…」

「完敗ね、これでシェリーが死んだことになる」

「……ベルモットありがとう
 その、バーボンにバレないようにしてくれたんでしょ」


私がいなくなったくらいじゃ、新一の作戦は崩れたりしない
ベルモットならそれくらい分かっていたはずだ
私は新一みたいに何かできる訳でもなく、私の役目は代わりが利く

だから私を部屋に閉じ込めた


「……ふふ、あなたは相変わらずお人よしね」

「そうかもね
 だから、ベルモットのこと嫌いになれない」


ベルモットは「本当にあなたって子は…」と何か言いたげだったが、歩き出してしまった
少し歩いたところで、バーボンに話しかけていたが、内容までは聞こえなかった

後ろから肩を叩かれて振り返ると沖矢さんがいて、そのまま手を引かれ、車に連れていかれた


「大丈夫ですか、顔色が悪いようですが…」

「……赤井さんって明美さんと付き合ってたんですね」


赤井さんの動きが止まった
すると、赤井さんは車のエンジンをかけた
車は何事もなかったように走り出す



「あぁ……
 誰かから聞いたのか?」

「哀ちゃんとバーボンの話を聞いて……」


赤井さんにとって聞きたくない話だったかもしれない
私はきっと、少しだけ嫉妬した

赤井さんは好きじゃない相手と付き合う人ではない
つまり、本当に明美さんのことが好きだったということだ


組織を潰したがっているのも、明美さんが強く関係している気がする
昔の事気にしてもしょうがない


でも、今は私だって言ってほしかった

私はいつからこんなに欲張りになったんだろう



「……変に気を使わせてしまいましたね」

「そんなんじゃないです…
 ただ、私、赤井さんのこと何も知らなかったんだって思って」

「それは俺だって同じだ
 お前がそこまでスコッチを想っているなんて知らなかった」

「……私たち、お互いの事何もわかってなかったんですね」

「……そうだな」

「ねぇ、赤井さん」


言ってくれないなら私から歩み寄れば良かった話なのに
私もたくさんのことを伝えればよかった話なのに


「私、赤井さんのこと好きです
 全て知りたいです」

「あぁ…俺もだ」


きっと、私たちは帰ったら、お互いの事もっと知っていく
お互いのことを伝えていく