漆黒の特急B


「ん……」


目が覚めると私はうつ伏せの状態で両手が後ろで縛られていた
耳にはめていた小型無線機はとられていなくて、ホッとした

これで助けが呼べる
発信器もついてるはずだから、位置が分からなくてもなんとかなる


「沖矢さん、すみません
 ヘルプです」

そう呟くと「今探しているので、少し待っていてください」と沖矢さんの声がした
しばらくすると、ガチャッとドアが開く音がした


「遅くなりました」

「すみません、油断してました」

「僕がちゃんと見ていればよかったんです、すみません」


沖矢さんは私の手を縛っている縄を外してくれた
外されにくいように縛られてはいたが、そこまで強く縛られていなかったので、痕は残らなかった


「ベルモットが動き出しました」

「有希子さんは?」

「外で待ってます
 僕たちに気を使ってくれたようです」


そういって、沖矢さんは私のおでこにキスを落とした
沖矢さんはいきなりやってくるので心臓に悪い


「絶対に無理はするな」

「はい」


私は部屋の外で待っていた有希子さんに現状を聞きながら、哀ちゃんを捜した
別れる時の沖矢さんの手が少し名残惜しく感じた

有希子さんにラブラブね〜!とちゃかされて、頬が熱くなった


哀ちゃんが身を隠すなら、人が現れない場所
有希子さんが、殺人が起きた7号車のB室だというのを急いで向かった
部屋で待っていると予想通り、哀ちゃんが逃げ込んできた


「哀ちゃん…!良かった!」

「なまえ…それに」

「哀ちゃん、時間がないの
 キッドが哀ちゃんに変装するから、会話で答えることを話してあげてほしいの!
 私、すぐ戻るから」


私は哀ちゃんに道具を押し付け、有希子さんと部屋を飛び出した
ベルモットの足止めをしなければいけない
バーボンはともかく、ベルモットは本気で哀ちゃんを殺そうしている


有希子さんが自分の部屋で足を止めた
私はドアの後ろに隠れ、息を殺した
私の役目は足止め完了の電話を新一にすることだ
声だけの判断じゃ難しい、その連絡がベルモットの可能性だってある


「あら、随分じゃない?
 お気に入りだったのよ、あのトランクに入ってたワンピ…
 ねぇ、もうこんなことやめたら?シャロン?」

「意外ね、あのボウヤが組織との争いに母親のあなたを巻き込むとは…
 なまえも協力していたようだったから驚いたわ」


「自分で買って出たのよ
 相手が銀幕のスターなら、日本の伝説的女優である私をキャスティングしなさいってね!
 でも残念だわ…年をとっても輝き続けるメイクの仕方を教わろうと思ってたのに…
 大女優シャロン・ヴィンヤードはただの老けメイクだったなんて…」


「あら、結構辛いのよ?
 普段から老けたふりをするのは…
 それより廊下ですれ違った時のあなたのあの言葉、どういう意味?」


有希子さんがパタンと扉を閉めた
これが合図だ

急いで、新一にメールを送る
私は急いで哀ちゃんの元に戻る

私は自分の役目をちゃんと果たさなきゃ