忘れられるはずのない人B


ベルモットに送ってもらった車の中で私は、夢を見た
あの日は、朝から珍しく電話がかかってきたんだ

私はどうしてもその時、電話に出られなくて、後でかけ直そうと考えていた
その電話が二度と繋がることはないと知らずに


《現在電源が切られているか、電波の届かない場所に……》


私は忘れていた
大切な人を失う悲しみと苦しみを

スコッチならきっといなくならないと心のどこかで安心してしまっていた

一つだけ入っていた留守番電話を再生する


《なまえ、組織に俺が潜入捜査をしている奴だとバレた
 約束、守れなくてごめんな》


その一言だけで、留守番電話は終わった
私の中には行き場のない感情だけが、暴れまわっていた
泣き叫んでも、スコッチには繋がらなかった


しばらくして、誰かが訪ねて来た
出る気にはなれず、私はベットに寝っ転んだまま、いないふりをした
ガチャッと鍵が開いた音がして、ベルモットかもしれないと思った

この足音はだんだんと近づいてくる

私の部屋のドアが開く
そこにはベルモットではなく、長髪の男性が立っていた


「だ、だれ」

「スコッチから預かってきた」


その人が私に差し出したのは、私が昔にスコッチにプレゼントしたストラップだった
少し血がついていて、変色していたものの、間違いなかった


「君に何度も謝っていた
 ただ、これだけは渡してほしいと頼まれた」


長髪の人は何も言わず、そのまま部屋を出ていった
私はストラップをぎゅっと握りしめた

スコッチの本名は知らなかった
私は彼の事を何も知らなかった


私はそれでも良かった
スコッチが傍にいてくれたら、それだけで幸せだった

家族がいない私にとって、スコッチは兄のようで、とても大切な人だった

私は起き上がり、家から出ようとしている長髪の人に駆け寄った


「ありがとうございます、持ってきてくれて」

「最後の頼みだからな……」

「……それでも、持ってきてくれてありがとうございました」

「       」

「え?」


長髪の人が何かを言った
私には聞こえなかった

聞き返そうとすると、私の世界がぐにゃりと歪んだ







「…あの長髪の人…どこかで………」


目が覚めると家のベットに眠っていた
私は、どうして今までこの記憶を忘れていたのだろう

決して忘れたくない人だったのに