そんなの分かっていたA


※灰原目線


「初めてかしら…
 あなたと二人っきりになるの…」

「そういえば、そうでしたかね…」


なまえがふらつきながらも、江戸川くんを捜しに行ってしまったから、私はこの人と二人っきりになってしまった
この人は気付いているのかしら
なまえの江戸川くんに対する過保護さや執心していることを

言わなくても分かっていた
なまえとこの人が恋人同士だということくらい


「警視庁の前で路駐するのも何ですから
 彼を待つなら駐車場に移動して車の中で待ちませんか?」


なまえが心を許したからと言って、私はまだこの人を信用できない
なまえを利用するつもりかもしれない


「そうしたいのなら、無理やり連れ込めば?」

「そんな無粋な真似はできませんよ」


この人はいつも意味深に笑う
私はそれに恐怖というよりは、不思議さを感じていた
まるで、どこかで会ったことがあるような、そんな感じがしてならなかった


しばらくしてから、江戸川くんが少しだけ戻ってきたけど、またすぐに戻って行ってしまった
なまえも何故かついていってしまったので、また二人っきり


「ったく…警察に任せておけばいいのに…」

「それより車の中で待たなくてもいいんですか?
 風邪を引きますよ」

「大丈夫…子どもは風の子だから…
 それより、あなたなまえのこと……どうおもっているの?」

「女性として、お慕いしていますが……」

「……気づいているんでしょう
 なまえの江戸川くんへ対する気持ち」

「はい、痛いくらいにね…
 でも、それでも“ずっと前から”彼女の事をお慕いしてたので…
 それに、強い気持ちだとしても、なまえさんの気持ちは恋愛とは違いますよ」

「そう……
 あなたが“何者だとしても”なまえを悲しませたら許さないから」

「心配しなくても、大丈夫ですよ
 私はなまえさんのこと幸せにしますから」


不思議な程に彼がなまえを想っているのが分かった
建物から警察が何人か出て来た
きっと、事件は解決した


「解決したよう…」


車に乗っている彼に話しかけると寝ているようで返事はなかった
私はゆっくりと車のドアを開けて、彼の首元に手を伸ばす

バクバクと心臓が音を立てて、汗が流れた
マフラーを引っ張り、首元が見えそうになったところで腕をつかまれた


「ここから先はこちらのエリアだ
 君の領分じゃない…
 大人は寒がり、風の子じゃありませんから」

「どうしたの?2人とも…帰ろ!」

「哀ちゃん、どうかした?」

「いいえ…なんでもないわ」


さっきから感じる妙な違和感の正体は何なのか私にはわからなかった