ちょっとした変化G


「お、おい!
 変な言い方すんなよ!
 まるで、俺が犯人みてーじゃねぇか!」

「それにボウズ
 何で知ってんだ?周平の名前…」

「まだ名字しかいってねぇだろ?」

「お嬢様はフルネームで名前を一角岩に刻んでくれたんだよ!」


私は脳内で刻まれていた魚を思い浮かべた
鯖(サバ)、鯉(コイ)、鯛(タイ)、鮃(ヒラメ)…


「それだけじゃ、ただの魚の名前だが、その名前を刻むのに使ったダイバーウォッチの裏の削られた単語のことを踏まえると見えてくるだろ?」

「削れていたんですか?」

「ああ…『AKAMINE』と『ANGEL』と『CLUB』の間の文字がな!」

「赤峰エンジェルフィッシュクラブ…
 削られていたのはFISH…
 つまり、フィッシュを消せってことね」


私はああ…と納得した


「鯖・鯉・鯛・鮃を漢字で並べて、魚へんを消すと、青里周平になるんだ…」


思っていたことが口か出てしまったようで沖矢さんが「お見事です」と微笑んでくれた
私は照れくさくて、えへへと気持ち悪い笑い方をしてしまった


「そんなナゾナゾみたいな
 ふざけた理屈で犯人にされてたまるかよ!」

「しかし筋はきっちり通ってると思うがなァ…?」


罪を認めない犯人に新一と沖矢さんが決定的証拠を叩きつけた
お嬢様のレギュレーターと自分のレギュレーターを入れた替えた時に、レギュレーターについていたお嬢様の口紅が犯人の口元についてしまったらしい
その口紅は犯人が貼っていた絆創膏の下に隠されていた

口紅は手で拭ったくらいじゃ、とれない
だから、絆創膏を貼るしかなかった

動機はダイバー仲間をお嬢様が置き去りにしたことだそうだ
殺害動機がそのまま、殺害方法になるなんて

すると、犯人は歩美ちゃんにナイフを向けて、私たちと距離を取った
どうやら、逃亡をするつもりのようだ
新一は道具を持ってないし、止められる人は……

何故か頭に赤井さんが浮かんだ
その時、私の隣に立っていた沖矢さんが一歩前に出た


「0.12パーセント
 犯罪者が高飛びに成功した確率です
 約1000人に1人の割合だ
 だが…悪魔の加護を受けたその者たちの中から正体を隠して何かに怯えながら過ごすこと
 に疲れ果て…自首・自殺をした者を除外すれば、ほぼ無に等しい

 果たして、あなたはその孤独感とプレッシャーに耐えきることができるかな?」

「うるせぇ!」


犯人が沖矢さんにナイフを向けた瞬間に沖矢さんはナイフを弾き飛ばした
ナイフは海に落ち、そのまま沈んでいった
気が付いたら、沖矢さんは歩美ちゃんを取り戻していた


「さぁ、もう大丈夫!」


犯人はそのまま警察に確保された
私はこの時、哀ちゃんが抱いた恐怖が少しわかった気がした