自分で戦える力を


「なまえ、何でいきなり截拳道を習いたいなんて言ったんだ?」


お風呂上がりで、キャミソールに短パン姿で真純ちゃんはタオルで頭を拭きながら不思議そうに私に聞いた


「私ね、前に好きな人が死んで、その人のために何もできなくて
 迷惑だけかけて…それが凄く悔しかったの
 それで一人で戦える力が欲しいと思った、強くなりたいの」

「へぇ…その人は幸せだろうね
 なまえにそんなに想われてさ」

「…そうだといいな」


私が強くなりたいと思った
ずっと前から思っていたのに赤井さんが死ぬまで、そのことから逃げていた
赤井さんが死んだ時、自分で戦える力を身に付けなきゃいけないと思った

最初は蘭ちゃんに空手を習おうと思った
理由が理由だったし、少しいいづらくて…言えずにいた

でも、赤井さんに似ている真純ちゃんなら言える気がしたのだ


「ボクが男だったら、なまえを絶対彼女にしてるよ
なまえが女でもいいなら今すぐにでもしたいくらいさ」

「え?」

「冗談だよ、なまえにはもう彼氏いるみたいだしな」

「!」

「さっき、スマホのロック画面が見えちゃったんだ」


今のロック画面は沖矢さんとのツーショットだ
園子ちゃんにこの間隠し撮りされて、LINEで送られてきたのである


「今の彼氏…その人が死んだ後に悩んでた時に助けてくれて…」

「今度会わせてくれよ」

「うん」


真純ちゃんは赤井さんに似てるから、一緒にいるとものすごく安心する


「実は、なまえのこと結構前から知ってたんだ
 秀兄の話によく出てくるし…それに…」

「それに…?」

「いや、なんでもないよ
 ともかく、秀兄がなまえの写真持っててさ、こいつは守らなきゃいけない奴なんだっていつも言ってた

 秀兄、その時FBIの彼女いたのに、別れて、日本行ってすぐに彼女できてさ
 隅に置けないなって思ってたんだ」


真純ちゃんは赤井さんの妹?
FBIの人ってジョディさん?
前に証人保護プログラムを勧めにきた時にジョディさんが様子がおかしかったのは、私か原因?


“ふふ、ごめんなさいね
シュウがあなたに過保護なもんだから……
シュウは初めてという感じではなかったわ”


私と赤井さんの距離感は、今思えば近すぎたかもしれない


「秀兄はなまえのこと、他に恋人がいる間も大切に思ってたよ
 ボクにメールや電話してくる時も一度はなまえの話が出たしね」

「私、赤井さんと出会ったの、最近なのにどうして私の事…」


組織内の情報が漏れていたのかもしれない
それで赤井さんは知っていたのかも


「あと、なまえは悪くないよ
 秀兄が死んだのはなまえのせいじゃない」

「真純ちゃん、ありがとう」









次の日、截拳道を真純ちゃんに教えてもらった
全身が筋肉痛になった