沖矢昴
私は少しスーパーに行こうと家を出た
ガチャリと鍵をかけたことを確認して、アパートの階段を下りていくと見覚えのない人が立っていた
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「先日からここに引っ越してきた沖矢昴です」
「あ、そういえば大家さんから新しい人が来ると聞いた気がします
初めまして、みょうじなまえと言います」
沖矢昴さんは大学院生で優しげな感じだ
私よりは9歳ぐらいは年上らしく、大人の余裕がにじみ出ているイケメンだった
「そういえば、どこかにお出かけになるつもりだったのでは?」
「あ!スーパーにいかなきゃいけないのに、ずいぶん長話をしてしまいました
すみません…!」
「いえ、お気になさらないでください
私も今から行こうと思っていたところだったのでよければ私の車で一緒に行きませんか?」
「そ、そんな悪いので…!
私は歩いていきます!
最近お腹もポッコリしてきたので!」
「お気になさらず…
それになまえさんはそのままでも十分素敵ですよ」
あれよあれよという間に私は沖矢さんの車に乗せられた
意外と強引な人なのかもしれない
それなのに妙に安心するのはなぜだろう
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「今日はありがとうございました」
「いえ、1人で買い物をするより誰かとした方が新鮮な感じがしますから」
沖矢さんの紳士さに私は内心ハラハラしていた
私の周りにはいないタイプの人のため、戸惑ってしまう
「ところでなまえさんには恋人がいらっしゃったりしますか?
もし、いるなら恋人にばれたら大変ですから…」
「いないので、ご心配なく!」
「………ちなみに好きな方は?」
「います、もう叶いませんけどね」
「どうしてです?」
「その人、亡くなったんです」
かすかに沖矢さんが表情を変えた気がした
そのまま沖矢さんとは何事もなかったかのように別れた
「……まさかな」
沖矢はぽつりと呟いた
その呟きは誰の耳にも入らなかった