愛は鎖

「好きだ、なまえ」


「ひっ……零……どうして」


逃げても逃げても、意味はない
分かっていても、私は逃げるしかなかった

私が初めて好きになった彼は、怖い人だった
それに気づいたのは、初めてキスをした日

キスをした彼は、笑って言った


“これで、なまえは僕の物だ”


私はその時の彼の目に恐怖した
ちょうど、仕事も忙しくなり、零と会う機会も減っていた

数日後、事件は起きた
朝、仕事場に行くと私のデスクがきれいに片付けられていたのである

会社の人に聞くと、私は辞めたことになっていると告げられた
突然の事で何が起きたのか分からなかった

ただ、何か恐ろしいことが起きているのは分かった



「……零が……やったの」


その時、私は本気で彼から逃げなきゃいけないと思った
私は家に帰り、急いで荷物をまとめて、実家に帰ることにした

タクシーに乗り、空港へ向かう
私はタクシーに乗って、完全に安心しきっていた

「え」

突然、タクシーは停まった
ガチャとドアが開き、誰かが私の隣に座った
怖い怖い怖い
見れない

私は直感で分かってしまったのだ、その正体を


「こんな遅くにこんな大荷物でどこにいくの、なまえ」


零を見ようとしない私にイラついたのか、零は私の顎をつかんで無理やり自分の方に向けさせた


「ひ…!」


零の目は冷たくて、まるでそれは人殺しのような
あんなにやさしかった零がなんで、こんな……


「ねぇ、質問しているんですから、答えてくださいよ」


「なんで、こんなこと………」


「俺の質問が先だ!」


強く肩をつかまれ、顔を歪ませると零は楽しそうに笑っていた
狂気に満ちたその顔は、どんどん私に近づき、重なった

抵抗しても、零の強い力には敵わなかった


運転手さんが見てるのに……
まさか、グルなの?



「ふふ、実は運転手は僕の友人でね……
 恥ずかしいのかい?
 見せつけてやればいいんだよ、僕たちの愛をね」


何で、ここまで……
零は一体…



「ここでするのは勝手だけど、家でやってもらえないかしら」


女の人の声がして、零は分かりましたよと返事をした
そのまま、睡眠スプレーをかけられ、私はそのまま意識を飛ばした






起きると体中が痛かった

目を開いた感覚があるのに、何も見えない



「起きたんだね、なまえ」


見えないけど、近くにいるのは分かった
生暖かい吐息が気持ち悪かった


「……来ないで……」



私は近づく、吐息に肩を震わせた


私はもう逃げられない
きっと、零も私から逃げられない

お互い、囚われてしまったのだ
愛という鎖に


「……反吐が出る」


ポロリと言葉を吐き出した口はそのまま、零に塞がれた


ああ、本当に狂ってる
狂っているのは零だけでなく、きっと私も