強行突破の前の話

ボウヤの賭けに乗った俺は、2人で作戦会議をしていた
誰にも言えない2人の作戦だ


「えっとさ、赤井さん決行前になまえ…お姉ちゃんに連絡しといた方が良いんじゃないかな
しばらくは赤井さん会えないし…」





沖矢昴としては会えても、赤井秀一としては会えることはないだろうな
それに、俺はなまえの恋人でもなんでもない

初めて会ったなまえは、まだ中学生になりたてだった
嬉しそうに笑う彼女は自分の親が組織の人間なんて知らないし、組織の存在も知らない
無垢で、純粋で、黒と白かと言われれば白で

彼女の母親から、守ってくれと頼まれていたため、時々様子を見に行ったりしていた


ライ、あなたもしかして、なまえのこと好きだったりしないの?
あなたなら、安心して任せられるんだけど
と、キティは笑う

俺には恋人がいると言い返すと、知ってると笑うのだった

きっとその知っているという意味には色々なものが含まれていた

しばらくして、彼女の両親は事故で亡くなった
葬式で見た彼女は可愛らしい顔を真っ赤に腫らして泣いていた


彼女は組織に監視されることになり、俺も迂闊に手を出せなくなっていた
身の安全は保障されているが、いつ何が起こるか分からない

監視についたのが組織内でよく仕事をすることが多かったスコッチだった
その時のなまえは幸せそうだった

そんな時、スコッチがノックだとばれて、その後しばらくして俺もFBIだとバレ、ますます彼女に近づけなくなった
監視の目も強くなっていった

久しぶりに見た彼女は、幸せそうに笑うものの、心のどこかに闇を抱えているようだった
他人に迷惑をかけないように、接触は極力避けて生きていた


「お前がみょうじなまえか」

「は、はい……」

「詳しいことはボウヤから聞いている……
 俺はFBIの赤井秀一
 君に助けを借りたい」

なまえは少しおびえていたが、静かにうなずいた


「私にできることならお手伝いしますけど……」

「実はな……」




それから、約束を破ってやってきたなまえは俺の顔を見て、安心したような表情をした
何で来たんだと怒ろうと思ったが、そんな気が失せてしまった

ベルモットに立ち向かう彼女は、昔よりもずっと強くなったと思う
守るべきものができたからかもしれない



「約束、守ってくれなかったな」


「すみません
でも、私に志保ちゃんを止めることはできなかったんですよ」


「……足を折れていないみたいだな」


「ヒビは入ってるかもしれないですけど……」

痛そうに足を見るなまえをそのまま抱き上げた

「あ、赤井さん…」


「歩けないんだろう?家まで送る
それに君がここにいると色々と厄介なことになりそうだしな」


「ご迷惑おかけします…」

そういったなまえの顔は真っ赤でまるで林檎のようだった
俺が「赤い林檎(レッドアップル)だな」と笑うと「わ、笑わないでください!」と真っ赤になって怒っていた


それがとてつもなく、愛おしいと思った
その時気づいた、俺は彼女のことをずっと昔から愛していたのだと







「ああ、電話しておいた方が良いだろうな」


「じゃあ、僕、下で待ってるね」


ボウヤが階段を下りて、ジョディたちの元へ戻った


1コール目で電話に出たなまえに思わず笑みがこぼれる


《もしもし…?》


「……何が起きても俺はお前の傍にいる」


《え?》



俺はそのまま電話切った
これでいい






久々に再会した時、俺はもう沖矢昴だった
人見知り気味ななまえの態度は新鮮でこれはこれで愛おしいと思った

沖矢昴の姿だと自然となまえに近づくことができた
初めは警戒していたなまえも、徐々に沖矢昴に心を開いていた


アパートが焼けたショックなのかは分からないが、事件のあと、なまえは倒れた
傍にいてあげた方が良いよとボウヤに言われ、なまえが寝ているベットの横に座った
変装を解いて、手をなまえのおでこに置いた

意識が戻ったのか、なまえは目を開けた
俺の姿を見て、涙目になっていた


弱弱しい声で「あ、あかいさん…もうどこにも行かないで」と言うなまえの手を優しく握った


「……心配するな、もうどこにもいかない」


これはなまえだけではなく、自分にも言い聞かせた言葉だった

沖矢昴の姿なら、なまえをすぐに守ってやれる
恋人にだってなれるかもしれない

…何もしなければこのままか
目を瞑り、このあとどうするかを考え始める


しばらくして、強行突破に出ることになるのだが、それを止めようとするものはいなかった