■ 悪夢の始まりの夜

沖矢さんの作ったご飯は本当においしい
中身はFBIの優秀な切れ者だなんて、すごいギャップだと思う
赤井さんは元々何でもできるタイプだから、今までしてこなかっただけで出来ないわけではなかったのかもしれない

沖矢さんが、家まで送ってくれるというので、お言葉に甘えた
家を出ると赤いマスタングが停まっていた


「沖矢さん車変えたんですか?」

「いや、今修理に出していまして……」

「そうなんですか…、かっこいいですね
 私の父の車もマスタングでした」


ゆっくり目を閉じた
目を開けたままでは涙がこぼれそうだった
今にも思い出せる鮮明な記憶
でも、最近は徐々に薄まっていくのを感じている
それが私がとても嫌だ

沖矢さんが私の肩を抱いた
優しくただ、頭を撫でてくれた

私は赤井さんの、沖矢さんのそういうところが好き

沖矢さんは私の手を優しく握った
久々のことで、私は猛烈に恥ずかしくなり、赤くなった顔を隠すためにうつむいていると、沖矢さんはクスクスと笑っていた

「何を照れてるんですか、今更」

「“沖矢さん”と会うのは久々なので」


沖矢さんは私の顔を上げさせて、おでこにキスをした


「本当は口にしたいのですが、今は外なので……」


私はすっかり沖矢さんのペースに呑まれてしまって、それを気づかれたくなくて、急いでマスタングに乗り込んだ







私の家までもうすぐというところで沖矢さんの携帯が鳴った


「どうしたの、赤井さん」


赤井さん(正確には沖矢さんの格好をした赤井さん)の車に揺られながら、うとうとしていると車は私の家の方向とは逆の方に走り出していた


「悪い、少し寄り道をする」


そういうと赤井さんは片手で運転しながら、もう片方の手で沖矢昴の変装を解いていた


「少しばかり荒い運転になる」


私は緊張感漂うこの空気に思わず、ごくりと唾を飲んだ
赤井さんの目はただ真っ直ぐ前を見ていた
まるで組織と対峙した時のような射抜くような目線にゾクッとした

前の方を走っていた黒い車が猛スピードで走っていく

それを追うように赤井さんもスピードを上げた
しばらくすると、白いRX-76が私たちが乗っている車を追い越した


「あ、安室さん……?」


赤井さんもそのことに気づいたようで、安室さんの車に並ぶように車を走らせた


「だ、誰だ!!
 ………赤井!!」

安室さんが敵意むき出しで叫んだ
そして、助手席に座る私を見て顔をしかめた


「引け赤井!!彼女を巻き込むな!!!」


赤井さんと安室さんがもめている間(正確には安室さんが一方的)に、黒い車は前の車にぶつかっていた
私は意味も分からず、ただ混乱していた

ぶつかられた車はバランスを崩し、その反動でまるで車が空を飛んでいるかのようにゆっくりと私が乗っている車に向かって落ちてくる

私はキュッと目をつぶった
しかし、衝撃も、爆音もしなかったため、私は恐る恐る目を開いた
間一髪のところで安室さんと赤井さんも避けたものの、赤井さんは突然車を停めた

安室さんはそのまま黒い車を追いかけ、走り去っていった


「あ、赤井さん…私降りますから、追ってください!」


「お前を乗せているから止まったわけじゃない
あの黒い車は逆走してくると判断したからだ」


「え?」


「お前は車から出るな」


そういうと赤井さんは車を降りた
すると、トランクを開け、ライフルを取り出して、ボンネットにセットした


赤井さんの予想通りだった
黒い車は逆走して戻ってきた
黒い車は赤井さんの存在に気づいたようでアクセルを踏み、加速したまま向かってくる


ぶつかる!と思った時、赤井さんが撃った弾が黒い車のタイヤに命中した
キィィィィという音がして、黒い車はバランスを崩し、橋から落ちていった

ちょうどその時に安室さんがやってきた
安室さんは赤井さんを見ながら何か言いたそうな顔をしていたが、パトカーのサイレンが聞こえると、何も言わず去っていった

赤井さんは誰かに電話をかけてから、車に乗ってきた



「詳しくは帰ってから話す」

「え……」

「今日は泊まるだろう?」


そんな風に聞かれて、私は黙って頷くしかなかった

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