■ エピローグ 嵐が過ぎ去った後

※安室視点


なまえさんを抱えたまま、歩いていると赤井が木の陰から現れた


「赤井…」

「迎えに来た」

「ちゃんと彼女の彼氏さんの元に帰してくださいよ」

「お姫様を王子様の元に返すのは当たり前のことだろう」


赤井は俺からなまえさんを受け取ると、なまえさんの顔の涙の跡に気づいたようで、「どういうことだ」と俺を睨んだ
赤井が俺に対して、そんな顔をしたのは初めてだった


「知っていたとしても俺の口からは言えない」







「生まれて初めて“あなたの色は美しい”なんて言われたんです
私、すごくうれしかったのにその人に何も言えなくて……
言わずに後悔したことは何度もあったはずなのに、私はまた言えなかった」

キュラソーの死体は誰のものか特定できないくらい損傷しているだろう
キュラソーの死は逃れようのないことだ

彼女はキュラソーに対して、他とは違う思いを持っていたのかもしれない
それは、友情に近いものだったのではないだろうか


「安室さん、私の泣いてたこと赤井さんに言わないでください
勿論、沖矢さんにもです」

「どうして、恋人の沖矢さんにまで……」

「恋人だからですよ」


彼女は恋人だからこそ、大切な人だからこそ言えないのだろう
そうしていつも悲しみを積み重ねてきた


「……分かった、誰にも言わないよ」

「ありがとうございます…」


そういうとなまえさんは気を失ってしまった





「彼女との約束ですから」


赤井は顔をしかめると無言で姿を消した

俺は深く息を吐いた
体がボキボキと嫌な音をたてた


「……散々な目に遭った」


これから今日のことについての始末書や組織との連絡に追われると思うと、うんざりしながら風見に電話を掛けた


「風見、俺だ」

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