嘘はこれで終わりにしよう
朝起きたら、なまえはいなかった
ベットは少しだけ温かく、出ていってから時間は経っていないようだった
飛び起きると、リビングのソファに黙って座っていた

昨日のなまえは違う人みたいだった
まるで、今までのなまえがいなくなってしまったような

「……なまえ」

なまえは俺の呼びかけで振り返る
すると、肩から服がずり落ちた
肩には痛々しい噛み痕があり、それを自分がつけたものだと満たされた気分になった


「…安室、お願い
 海に行きたいの」


泣きそうな顔でなまえは言った
俺は頷いて、梓さんに休みの電話を入れた
ここでこれを断ったら、なまえが泡となって溶けてしまいそうだったからだ
この前の狂気じみたものはどこにもない
ただ、脆く、儚いものがそこにはいた






車に乗っている間もなまえは何もしゃべらなかった
海に着くと、なまえは車のドアを開けて、砂浜の方に走り、海に飛び込んだ


俺も慌てて、後を追う
本当に泡になって消えてしまうかもしれない


「………ごめん、スコッチ」


なまえはそういって、涙をこぼした
そして、俺の方を向いて、泣いていた


「……言えない、言えないの
 安室、私あなたに秘密ばっかりもってて、何も言えない、教えてあげられないの
 
 ねぇ、安室は私のこと殺してくれる?」


「……殺せない」


「私のこと愛してないんだ」


「……嘘つかなくていい
 記憶が、戻ったんだろ」


なまえは気づいてたんだと笑った
ベルモットが、前に“昔は、なまえあんな感じじゃなかったのよ”と言っていた
記憶を失ったことで、なまえの人格が変わってしまったのだと思う
昨日から様子がおかしかったのは、記憶を取り戻し、今まで素でやっていた狂気じみたのを演じていたからだ
多分、他の奴らなら気づかなかっただろうが、俺は気づいてしまった


「……嘘つきでしょ、わたし」


「もう嘘はつかなくていい
 お前が何かを隠しているのは分かっている
 無理に言わなくていいんだ

 約束通り、教えるよ
 俺の本名は降谷零だ」



「ふるやれい…」


「なまえの秘密は、俺が組織を潰した時に教えてくれ」


「いいの?何年もかかると思うけど…」


「それでもいい、お前を繋ぎ止めておけるなら」


なまえは俺に、バカと呟いて、笑った


「そんなことをしなくても、私はもう零から離れられないよ」

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