痛いほどに分かった
「……私」


「思い出したのか」


「えぇ…全部
 私はあの後、ジンにノックだと疑われて、殺されかけた…
 でもなんとか助かった……理由は覚えていないけど」



「……あの場にいた全員が潜入していたとはな」


私たちにとって、あの事件は悲劇の始まりだった
安室はそれで赤井秀一を憎悪の対象としてしまった

私はあの時、赤井秀一に安室にはこれを知らせたくない、守りたいと言った
赤井秀一も同じ気持ちだったらしく、悪役を買って出てくれた
私と赤井秀一はこうやって、安室を守ろうとした

でも、それは逆に悲劇を生んでしまっただけだった


「お前は記憶を失い、人格まで変わってしまったようだった
 俺は少し前にお前を見かけた時に誰か分からなかった」


「顔のせいじゃなくて?というか、私あなたに本当の顔で会うの初めてだと思うんだけど…」


「顔は組織にいた頃に調べた時に知った
 雰囲気は、組織にいた時のは素だと思っていたから、見かけた時は狂気じみた雰囲気に驚いた
 お前はどちらかというと、高飛車って感じの女だったからな」



「それは演技……ああ、もう本当の自分が分からなくなってきた…!」


記憶を失うということは、自分自身も失うということだ
あの日の記憶が残っていたものの、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていた

赤井秀一を殺そうと思ったのは、私があの時本当にライを愛していたからだ

スコッチが私に殺してほしいと頼んだ時、私も死ぬ時は好きな人の手で殺されたいと思った
私にはスコッチの気持ちが痛いほどに分かってしまった
だから、私はスコッチを殺してあげられなかったことが……辛かった、悲しかった、どうしたらいいか分からない感情がたくさん渦巻いた

それが私が記憶を失った時に人格として浮かび上がった


不思議な程に今は赤井秀一に対して、殺したいという気持ちは湧き上がってこない
私の記憶が戻り、人格も元に戻ったからだろうか


「お前はこれからどうするつもりだ?」


「そうね、私と潜入していた人がもう一人いるようだから、記憶が戻ったことを知らせるわ
あと、突然元に戻ったらジンに怪しまれると思うから、しばらくは狂気じみた女を演じることにする」


「その方が賢明だ」


「安心して、安室にこのことは言わないわ
 私はあなたにまだ死なれたら困る
 それに、私、安室にノックだってばれたくないの」


拒絶されるかもしれない
そんな恐怖があるからだ


その時、安室からどこにいるのかとメールがあった
散歩をしていると嘘をついた



「安室に見つかりそうだから、もう帰る
 あなたもばれないように頑張って

 あと、私、あなたこと好きだったわ」



「光栄ですね」


それは赤井秀一の声ではなく、メガネの青年の声だった



「皮肉のつもり?」


「まさか」


私はそそくさと家を出た
何故工藤新一の家にいるのかは分からないけれど、きっと何か事情があるんだろう
赤井秀一の死については、私はバーボンに色々妨害されて、情報が少しも入っていない
ただ、頭を撃ち抜かれたということだけは告げられた

ともかく、生きていてくれてよかった



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