一万打企画 | ナノ




\2人のピエロ/
私は今、1人の男に押し倒されている
決して、私の彼氏とかそういうのではない

どちらかというと愛人に近い


「……安室さん、どうしたの」


羊の革を被って、困ったように笑う
安室はそんな私を見透かしたように睨みつける
いつもなら、これで終わるのに、どうしたのだろうか


「最近、寄り道が多いじゃないか」



始まった
安室さんは無駄に独占力が強い
執念深いから、私の行動が全て把握されている
つまり、私がどこに寄り道してたなんてお見通しだ



「……そんなことないよ」



私は安室のこういうところが嫌いだ
安室の独占力のおかげで、私の世界はどんどん狭くなった
お得意さんの情報屋も仕事を受けてくれなくなった
安室に頼めばいいと言われるのだ


「あなたは、どうして…僕を…」


こいつは私の化けの皮を剥がしたいだけだ
私の本性を面白半分で見たいだけ

私は組織に潜って、ずっと1人で頑張ってきた
安室のことははっきりいって、うざったい
“本職”に支障をきたすレベルで迷惑している


「バーボン、あなたは何を隠しているの?」


「……」


安室は何も言わなかった
バーボンと呼んだからなのか、私の質問が図星だったのか


「……どうしてそんなこと言うんです?」


「バーボンと同じ気持ちよ」


私だって、安室の化けの皮を剥がしてやりたいのだ
私たちはお互いをだまし合っている

安室は本命の彼女をつくらない
それがすごく疑問だった
組織でも割とかわいい子はいるし、安室に好意を寄せている子もいる

それなのに、なぜ私なのか
私は、どちらかというとそんなに可愛らしい容姿ではない
演技でかわいらしさを偽っているが、結局安室には見破られている


「……同じ気持ちですか」


少し嬉しそうに笑うと、私の首元に唇を寄せた
私は何事かと目を見開いた

その時、首元に鋭い痛みが走った



「……こういうことですか?」



私の首元はじんじんと熱くなっていた
そう、安室の唇が当たったところが特に熱くなっていた


「な、なにをしているの」


「同じ気持ちだとおっしゃったので」


どういうことだ
今の痛みはまさしく、キスマークを付けられた時のもので…


「……」


「これは嘘つきの印です
 僕の言葉の意味はこれが消えるまでにちゃんと考えておいてくださいね
 まぁ、またつけることになると思いますが……」



「……嘘」


「なまえの嘘つきは簡単には治りそうにありませんからね」


にやりと笑う
まさか、こいつ私の正体に気づいて……!


安室は私の上から降りて、出入り口のドアへ向かっていった
黙って見ていると、突然足が止まった
そして、振り返って、微笑んで言った



「僕はゼロですから」


私の顔が真っ青に染まったのを見ると、安室は部屋を出ていった



「う、うそ…同業者…?」


私の驚いた声は誰にも聞かれることはなかった


「風見…!」


他に仲間が潜ってるなら教えてくれればいいものの…!
もしかして、安室にバラしたな!


今度会ったら、ぐちぐち言ってやろう
困ったような顔をした後輩が思い浮かんで、私は思わず笑った

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