会議の途中に黒服を着た人か部屋に入ってきた
どうやら、中森警部から電話が来たらしく、治郎吉さんは電話に出た

きっと、快斗だ
キッドが何かを始めたんだ


「鉄狸が破られることはないと思うが、分かった…」


電話を切ると、園子ちゃんが「まさかキッド様が…?」と治郎吉さんに聞いた
治郎吉さんは頷いた


「うむ、毛利のところに新たなメッセージが届いたそうじゃ」


部屋にいる全員が目を見開いた


「あぁ、『ラ・ベルスーズの左、最初の模写をいただきに参ります』とだけあったそうじゃ」


“あぁ、損保ジャパン日本興亜美術館から5枚目の向日葵を盗みにな”
今朝の快斗の言っていたことが頭を過る
5枚目の向日葵が、『ラ・ベルスーズ』の左……最初の模写……?


「『三幅対』の左側のことか…?」


東さんの呟きに隣に座っていた岸さんが反応した


「まさか……最初の模写って…」


東さんは黙ってうなずいた


「わしは念のため、地下金庫の向日葵が無事がどうか確認してくる
 皆は少しの間、待機しとってくれ」


部屋から出ようとする治郎吉さんを岸さんが「相談役!メッセージ通りならキッドの狙いはここにある向日葵ではありません!」と引き止めた


「ラ・ベルスーズの左、最初の模写とは5番目に描かれたとされる向日葵のことです
 5番目の向日葵はご存知のように現在この日本にあります」


「キッドめ…!
 今度は別の向日葵を…!
 後藤!すぐに中森警部に連絡じゃ!
 次のキッドの狙いは5枚目の向日葵……場所は損保ジャパン日本興亜美術館とな!」


快斗が言ってた通りだ
狙いを変えたということは、犯人が狙う向日葵を変えたのかな

快斗は向日葵を守ろうと頑張っているんだ
犯人は今この場にいるかもしれない
一体だれが……一人ずつ見ていくも特に異変のある人はいなかった

逆に考えれば、犯人は平然とここにいるかもしれないのだ

犯人が快斗に危害を加えようとしたら……私は……


“鈴木相談役の側に俺の仲間が潜り込んでいる
 お前に危険が及んだら、守るように頼んである”


「!」


手の震えが止まらなかった
園子ちゃんたちにばれないように、少し距離を置く
落ち着いて、お願い、収まって


「みょうじさん…顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」


後藤さんがいきなり声をかけてきて驚いて、振り返る


「え、どうして…なまえを……」


「坊っちゃんから聞いているので」


私にしか聞こえないような小さな声でそう言った
あ、快斗の仲間?


「今日は早めにお帰りになった方が良いですよ」


「快斗…帰り遅くなるみたいですけど」


「坊っちゃんは帰ったら、あなたがいるから頑張れるんですよ」


私は頬に熱が集まるのを感じた
それを見て、後藤さんが微笑ましく笑うので、ますます私の顔は赤くなっただろう


「……早めに帰ります」


「……では、いつかまた素顔で」


はいと返事をする前に後藤さんは治郎吉さんの方に戻ってしまった


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