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アームストロングに呼ばれてクライサが病院を離れ、救護用のテントに入った時、中にいたロイが振り返った。
そして見た。
確かに、こちらの顔を。

「……お兄ちゃん」

「来たか」

視力を失った筈の彼が、こちらを、クライサの目を、見たのだ。

「…目……」

「ああ。…これだよ」

クライサの疑問を察して、ロイは懐からあるものを取り出した。
親指と人差し指でつまめる大きさの、賢者の石。
先ほどノックスが連れてきたマルコーによって譲られたものだという。
新たなイシュヴァール政策を行うことを条件に。

ーーこのたびの作戦は、イシュヴァール人の協力なくして成功はありませんでした。

「イシュヴァール閉鎖地区の解放、および各スラムにいるイシュヴァール人を聖地に帰すこと…そして、自分がそこで医者として暮らすことを認めてほしい、と。それがドクターから出された条件だ」

「……そか。じゃあ、これからまた忙しくなるね」

「ああ。…それから」

ロイは前触れなく賢者の石を投げた。
それを反射的に受け取って、しかし意図がわからずクライサは兄を見る。


「君は『涙』を取り戻して来い」


「…………は」

何を言い出すのだ。
とっさに返答も出来ず、呆けたクライサにロイは続ける。
彼女がそれを拒むことは、考えるまでもなくわかることだ。

「拒否は認めん。さっさと行って取り返して来い」

「は……え、ちょ、待ってよ、そんなの…」

「なんだ、君も条件がほしいのか?ならば『君が私の妹でいてくれるのなら、その石を譲ろう』」

「……っ!!」

それは条件なんかじゃない、脅迫だ。
クライサは返す言葉を失い、顔を俯ける。

クライサが彼の妹であることを条件に、賢者の石を譲る。
それはつまり、石を使って涙を取り返してこなければ兄妹の縁を切ってやるぞ、ということだ。

「……そんなの、卑怯だ…」

人体錬成はクライサ自身の罪で、失った涙はその証。
それを取り戻すのに他人の命は使えない。
ーーそれでも、それ以上に、

(あたしは、お兄ちゃんの妹でいたい)


「……先が短いというのなら、君には」

人よりも余計に笑って、泣いて、怒って、そしてそれ以上に、笑ってほしい。

「一生のお願いだよ。私のワガママを聞いてくれ」

「……お兄ちゃんの一生のお願いって、一体何回あんの」

「そう指摘しながらも、君は全て聞いてくれたじゃないか」

「だって」

顔を上げたクライサは、笑っていた。

「それが、妹ってもんでしょう」









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