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エドワードは涙を拭い、自分たちを囲む人々へ目を向ける。
メイ。
「アルのために、こんなに泣いてくれるのか」
ダリウス、ザンパノ。
「合成獣のおっさんたちは巻き込まれただけなのに、最後まで付き合ってくれた」
ブリッグズ兵。
「厳しいけど、頼りになったな…」
アームストロング。
「少佐はまた泣いてら」
リン、ランファン。
「自分の国のこともあるのに、賢者の石を使えだなんてお人良しすぎる」
イズミ。
「師匠にはよく叱られたなぁ…」
そして、ロイとホークアイ。
イシュヴァールの話を聞いたあの時と、初めてリゼンブールで出会った時のことを思い出す。
最後に、クライサ。
ーー諦めろなんて言ってない!!死んでいいなんて言った覚えはないよ!!
ーーあたしは諦めないよ。あたしのことも、アンタたちのことも。
(……そうだ。誰もオレたち兄弟に『諦めろ』って言わなかったじゃないか!!!)
手頃な棒を拾い上げると、エドワードは地面に線を描き始めた。
ちょっと離れてろ、とメイに声をかけ、彼が描いたものはあのグラトニーの腹で描いたそれと同じもの。
「これハ……人体錬成の陣!?」
「ちょっと行ってくるわ」
その中心に立ち、両手を合わせてエドワードは言った。
「鋼の錬金術師、最後の錬成にな!!」
驚愕に染まる面々。
それを眺めた彼の目が止まった。
空色の少女だけは、心穏やかに微笑んでいる。
彼女の確信が、これだけの安心を生むなんて。
エドワードは、微笑った。
「行ってらっしゃい、エド」
「おう」
直後、眩い光が辺りを照らした。
『弟を連れ戻しに来たか』
真っ白い部屋。
大きな扉と、その前に座る白い影。
『だが、どうやって人間ひとり引っ張り出す?代価は?お前の肉体を差し出すか?』
足を進める。
エドワードは座り込む真理の脇を通り過ぎ、扉の前で足を止めた。
「代価ならここにあるだろ」
彼が見上げるのは扉だ。
真理の扉。
それは全ての人間の内に在り、全ての人間に錬金術を使う力をもたらすもの。
『……錬金術の使えない、ただの人間に成り下がるか?』
「成り下がるも何も、最初っからただの人間だよ。合成獣にされた女の子ひとり助けられない小さい人間だ」
それが真理という大きなものを見てしまってから、それに頼って過信して、失敗して、その繰り返し。
踊らされたものだ。
『……もう、“これ”が無くても大丈夫か?』
「錬金術が無くてもみんながいるさ」
真理は笑った。
正解だ。
『お前は真理(オレ)に勝った。持って行け、全てを』
合わせた両手で、扉に触れる。
一瞬、火花のような錬成光が走り、扉は端から崩れていった。
消えゆく真理の示した『出口』へ振り向けば、そこにはもう一つの扉と、座り込む弟の姿。
「無茶しやがってこんにゃろう!!」
歩み寄り、手を伸ばす。
「迎えに来たぞ、アル」
「うん」
しっかりとその手が繋がれた時、アルフォンスの真理の扉が音を立てて開いた。
そこからはあの黒い触手ではなく、眩いばかりの光が溢れる。
「一緒に帰ろう。みんなが待ってる」
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