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『フラスコの中の小人』は消え、彼に従っていた人造人間も死んだ。
倒すべき相手はもういない。
だが、問題が一つ残っていた。
アルフォンスが戻ってきていないのだ。
本当の意味で空っぽになってしまった鎧を前に、エドワードは俯いていた。
メイは傍らで泣きじゃくっている。
クライサはダリウスに運んでもらい、アルフォンスのそばに腰を下ろした。
「エド!通行料ならあル!」
そう言ったのはリンだった。
「使エ!賢者の石ダ!これでアルを取り戻セ!」
彼が持っていたのは、赤い液体の入った小瓶。
リオがランファンに渡した賢者の石だ。
「…………ダメだ」
だが、エドワードは首を振った。
手を伸ばしたい衝動を抑えるように、握り締めた拳を地面に当てて。
アルフォンスと約束したのだ。
自分たち兄弟の身体を取り戻すのに、賢者の石は使わないと。
他に何か方法はないか。
ある筈だ。
(考えろ。考えろ。思考を止めるな!!)
黙り込んでしまったエドワードの名を、ホーエンハイムが呼んだ。
「俺の命を使って……アルフォンスを取り戻せ。ちょうど『ひとり分』残ってる」
しかしエドワードは、すぐさま否定した。
そんなこと出来るわけがない、自分たち兄弟が身体を無くしたのは自分たちのせいだ、アルフォンスを取り戻すのに人の命は使わないと散々言っているだろう、と。
「だいたい、なんでてめぇが命を懸ける必要がある!!」
「父親だからだよ」
当たり前のように返ってきた答えに、エドワードは言葉を失った。
「必要とか理屈とかじゃないんだ。お前たちが何より大事なんだ。幸せになってほしいんだ」
エドワードとアルフォンスは、母を失い、二人きりになってしまったから母を取り戻そうとした。
そうなってしまったのは、早くに家を出て、子どもたちをほったらかしにした父親のせいでもある、と。
「すまなかった」
謝罪の言葉。
おそらく一番聞きたくて、聞きたくなかった言葉だ。
「俺はもう十分生きた。最期くらい、父親らしいことをさせてくれ」
歯を食いしばる。
だが意識に逆らい、金眼から零れ落ちた涙。
「バカ言ってんじゃねぇよクソ親父!!」
二度とそんなこと言うな、はったおすぞ、と彼らしい言葉が続くが、ホーエンハイムは眉尻を下げて笑った。
「はは、やっと親父と呼んでもらえた」
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