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「メイ……頼みがある」

アルフォンスは言った。

「兄さんは、右腕を犠牲にしてボクの魂をあそこから引っ張り出した。『等価交換』だと言うのなら、逆も可能な筈だ」

メイは、信じられなかった。

「アルフォンス様、何を考えてるんですカ……」

信じたくなかった。
聞きたくなかった。

「道を作ってくれるだけでいい。出来るだろ?」

「そんなことしたらアルフォンス様ガ……!!」

「時間が無い」

アルフォンスはわかっていた。
血印のすぐそこまで、破損してしまった鎧。
自分が、この世にいられるのが、残り僅かな時間であることを。

「お願いだ。こんなこと頼めるの、君しかいない」

わかっていた。
メイを泣かせてしまうことを。
それがどれだけ残酷な頼みであるかを。





「何をする気だ、アル……」

動かない少女の名を呼んでいたエドワードは、突然自身の右側、その瓦礫に突き刺さった五つの刃物に目を見開いた。
メイの持ち物だ、と気付いて彼女を探せば、その少女の傍らには弟が倒れている。

「おい、やめろ……アル……おい……ッ」

上げられた両腕が、何をしようとしているのか。
わからないわけがなかった。
制止を、しかし弟は聞かない。

「勝てよ、兄さん」

叫び声となったそれもやはりアルフォンスは聞かず、その両手のひらは合わされた。





『もういいのかい?』

長く伸びた髪。
痩せ細った身体。
扉の前に、彼は座っていた。

「うん。あとは兄さんを信じる」

手は、どちらからともなく伸ばされた。
しっかりと繋がれたそれ。
アルフォンスだった鎧は分解されて消えていく。

『よう。中味、入ったんだな』

アルフォンスになった彼は、頷いた。
兄は必ず来ると、真理に向かって力強く言った。





クライサは目を瞠った。
エドワードの腕が、そこにあった。
機械鎧でなく、生身の。
逞しく鍛えられた左腕には不釣り合いの、細い右腕が。

「バッ…カ野郎ーーーーッ!!!」

エドワードは叫びながら、アルフォンスと引き換えに戻ってきた右手を、左手に合わせた。
その手のひらを地面に当てれば、そこから突き出た柱がクライサの目の前にいた『フラスコの中の小人』を突き飛ばす。

さらに左腕に突き刺さっていた鉄筋を抜き、自由になったエドワードは駆け出した。
怒りを露わにした表情で、連続して錬金術を使い『フラスコの中の小人』を攻撃していく。
なすすべなく攻撃を受ける彼の姿に、人々は希望を見た。
いける。

「行けー!!小僧ーっ!!」

ダリウス、ザンパノ。

「やったれチビ助!!」

ブリッグズ兵たち。

「エドワード君!!」
「エドワード・エルリック!!」
「エド!!」

ホークアイ、アームストロング、イズミ。

「エドワードさン!!」
「エドワード…」

メイ、ホーエンハイム。

「………行ケ……」

ランファン。

「鋼の!!」
「エド!!」

ロイ、クライサ。

仲間たちの声を受け、エドワードは左腕を振るう。
錬金術を使っているわけではない、繰り出された生身の拳は『フラスコの中の小人』を顔面を確かにとらえた。

「立てよド三流。オレたちとお前との、格の違いってやつを見せてやる!!!」









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