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『ふむ……この状況でこれを解放するのはリスクが高いな』

男が疑似太陽を手のひらで握り潰すと、同時にホーエンハイムらを襲っていた攻撃が止んだ。
術の発動を止め、漸く息つくことの出来たホーエンハイムとメイを、それぞれアルフォンスとエドワードが労う。

「はっは…どうだ!今は『神』とやらをその身体の内に保ち続けるだけで精一杯なのではないか?」

『……資源はまだまだいくらでもある。また賢者の石を作れば良いだけのことだ』

内から溢れ出しそうなものを押し留めるように、肘掛けを掴む両手に力がこもる。
その身体にはいくつもの筋が浮かび、神を抑えることが容易でないことが見てとれた。

『一億でも十億でも、人間というエネルギーはこの地上に存在するのだから』

彼が左腕を上げると、それに応じて空が渦巻いた。
そして竜巻がエドワードらを襲う。
天気まで思うがままか、と冷や汗を垂らすホーエンハイムとメイが防御を張るが、正面からも攻撃が続く。

「(相殺が…間に合わん……!!)」

「踏ん張ってくださいおじさマ!!!防御の陣が壊れル!!」

押されつつあるホーエンハイムの足が、少しずつ後ろへと滑っていく。
ここで先のように攻撃の勢いが増せば、今度こそ押し返せずに防御が崩れてしまうだろう。
それを見越して、『フラスコの中の小人』の指先が動いた。

ズゴン!

「!?」

だが、彼の指が肘掛けを叩くことはなかった。

頭上、先の攻撃で空いた大穴とは別の場所で、天井が盛大に破壊されたのだ。
何事かと、エドワードたちやプライドはそちらを見上げる。
直後、彼らの視線の先から、無数の何かが『フラスコの中の小人』に向かって放たれた。

『む……』

“それ”は彼に届く前に、動作もなしに一呼吸のうちに分解されてしまう。

「(あれは…!!)」

しかし、エドワードは見た。
無数に放たれたそれは、“彼女”の十八番。
氷のナイフだ。

「ダメだなぁ。あたしがいなきゃ、小悪党一人倒せないの?」

響くのは、待ち焦がれた声。
エドワードの口端が上がる。
信じて、いた。

「遅刻だぜ、クライサ」

「定石でしょ?ヒーローは遅れてやって来て、一番おいしいところを持ってくもんなんだよ」

軽やかに降り立った少女は、いつもと変わらぬ、自信に満ち溢れた不敵な笑みを浮かべていた。









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