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ドクン

その時、自身の身体に起こった異変に『フラスコの中の小人』は目を見開いた。

「気付いたか?さっきからずっと聞こえている心音に」

ドクン、ドクンと。
鼓動は止まらず、彼は自身の胸を押さえ、プライドは音の出所を探すように辺りを見回した。
ホーエンハイムは続ける。

「この国の人々の魂は、精神という名のひもでまだ身体と繋がっている。そう……例えるなら、へその緒で母体と繋がる赤子のようにな。完全にお前の物になっていない、ということだ」

『……何をした、ホーエンハイム』

「長い年月をかけ、計算に計算を重ね、この日のために俺の中の賢者の石を…仲間を各地に配置しておいたのさ」

ホーエンハイムはクセルクセスで死ねない身体となってから、その長すぎる時間を利用し、身の内に“いる”賢者の石となった魂一人一人と対話をした。
その数、五十三万六千三百二十九人。
『フラスコの中の小人』を倒す、というただ一つの目的のためにホーエンハイムに協力しているという、その仲間の一部が、“その時”を待っているのだ。

『何をする気か知らんが、ただポイントに賢者の石を打ち込んだだけか?それで何ができる?錬成をするにしても、円というファクターが無ければ力は発動せん』

「円ならあるさ。時が来れば、勝手に発動するようになっている……空から降ってくる、とびきりでかくてパワーのあるやつがな!!」

“それ”は彼の計画の要だった。

「日食によって大地に落ちる月の影…本影だ!!」

時は来た。
アメストリスを覆う巨大な影。
巨大な円が、国を包む。

『邪魔をするか、ホーエンハイム!!!』

「そのためにここに来たんだよ『フラスコの中の小人』!!!お前が神とやらを手に入れた時には、既に人間(われわれ)の逆転劇は始まっていた!!!」

逆転の錬成陣は発動した。
遥か上空高くまで光が立ち上り、衝撃が男を襲う。
魂は、肉体と絶妙かつ緊密に結びついている。
それを無理矢理剥がして他に定着するには相当なエネルギーがいるが、その逆は簡単だ。
魂を解放してやればいいのだ。

「元の健全な肉体が存在すれば、魂が勝手にそっちに呼ばれてくのさ。磁石みたいにな」

『フラスコの中の小人』の身の内から解放された、アメストリス国民、約五千万人の魂が渦巻きながら空へと立ち上る。
そして魂一つ一つが、元の身体へと戻っていく。
やがて国中の人々が目を覚まし、静寂に支配されていたアメストリスには驚愕や混乱の声が満ちた。

「アメストリスの人々の魂はそれぞれの身体へと帰った。元から持っていたクセルクセス人の魂だけでは、そのとてつもない『神』とやらを押さえ込んでいられまい」









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