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「さて。いつまで隠れているつもりだい?」

その言葉と共に、ロイは漆黒の眼で構内を見回す。反応の無いそれに溜め息をひとつ吐くと、再び口を開いた。

「やれやれ……先程から空色の髪が見えているのだがね」

「ええっ!?うそ!!」

まさかバレるとは思わなかった、という驚きのために大きくなってしまった声を上げて、少女は立ち上がってしまった。
積まれていた木箱の陰から。

「やあ。そこにいたのかね?氷の」

「……っ、引っかけたな……!」

「引っかけたとは人聞きの悪い……君がなかなか姿を見せないのが悪いのだろう?」

憎々しいまでの満面の笑みを浮かべ、ロイは言う。クライサはそれを悔しげに睨みつけつつ、返す言葉を探していた。

「……司令官殿がなんでこんな所にいんのさ」

「おや、随分な物言いだな。君を出迎えてやったんだろう。今回の視察は時間がかかったようだが……リオールへの道のりはそんなに長かったかね?」

エドワードたちの旅に付き合って寄り道していたことは、既にバレバレらしい。嫌味な笑みを見せるロイに小さく舌打ちし、クライサはある決断をした。

「完全無視に大決定!!エド、アルフォンス君、逃げるよ!!」

「仕事が溜まってるからな。すぐに戻りたまえよ、氷の」

「うわぁぁん!わかってらぁ!!!!」

逃走失敗。
上官に逆らうことなど出来る筈もなく、クライサは渋々司令部ーー彼女の仕事場へと戻るのだった。








「つっかれたー……」

視察に行っている間に積み上がってしまった書類の山を半分以上残し、クライサは自席に突っ伏した。
ここらで一つ、休憩時間にしなければ、気力も体力も尽きてしまう。ホークアイが淹れてくれた紅茶のカップを傾けて、漸く一息ついた。
エドワードは報告のために、ロイと彼の執務室に行っている。クライサとしてはロイの嫌味を聞くことにならず、大助かりである。

「……クライサって凄いよね。その年で軍部でこんなに仕事してるなんて」

兄が報告に行っている間、ホークアイに旅の話をしていたアルフォンスが、いつの間にやら傍に立っていた。クライサはカップを机上に置き、彼に向き合う。

「別に、凄くなんかないよ。仕事なんてもう慣れたし……アルフォンス君たちだって、何年も二人で旅してるんでしょ?そっちのほうが凄いと思うな」

「アルでいいよ。ボクもクライサって呼ばせてもらってるし。……そういえば、クライサと兄さんって知り合いだったの?」

「……ああ、そっか。エドのやつ、アルフォンス君……アルには話してなかったんだね」

椅子に座り直し、足を組んでからもう一度カップを手に取る。

「ちょっと長くなるけど……付き合ってくれる?昔話」









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