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『それが国家錬金術師の仕事だからです』

『それが兵士に与えられた任務だからです』

『違いますか?』

唯一、この惨状を仕事として割り切っていたのが、『紅蓮の錬金術師』ゾルフ・J・キンブリーだ(割り切っていた、というより楽しんでいるように見えたが)。
戦場という特殊な場に正当性を求めるほうがおかしい、と彼は言った。

『自らの意志で軍服を着た時に、既に覚悟があった筈ではないか?』

嫌なら最初からこんなもの着なければいい。
自ら進んだ道で、何を今更被害者ぶるのか。
自分を哀れむくらいなら、最初から人を殺すな。

『死から目を背けるな』

前を見ろ。

『貴方が殺す人々の、その姿を正面から見ろ』

そして忘れるな。

『奴らも貴方のことを忘れない』


最後の地区、最後の一人を殺したのは、ロイだった。
イシュヴァール全区が完全に国軍の管轄に入り、殲滅戦は終わりを迎える。

『情けない…』

長く闘っていながら、自分の隊に属している、支えてくれた仲間の名を覚えていない。
死んでいった部下の名も、覚えていないのがほとんどだ。
ましてや、手にかけたイシュヴァール人のことなど何一つも。

『焔の錬金術師がいたから、俺たちは死ななかった。俺たちにとっちゃ、貴方は英雄なんだ』

『貴方のおかげでこれだけたくさんの兵が生き残れました』

この国を護るだなどと言っても実際は、たった一握りの人を守るので精一杯ではないか。
これだけたくさんの兵を守れた?
これだけしか、助けられなかったのだ。

『そんな己に腹が立つ!!』

一人の力なんてものは、たかが知れている。
ならば自分は自分で守れるだけ、ほんの僅かでいい、大切な者を守ろう。
下の者が更に下の者を守る、小さな人間なりにそれくらいは出来る筈だ。

『ネズミ算かよ。子供の計算だ!理想論だ!』

青いと言われようが構わない。
理想や綺麗事などと言うが、それを成し遂げた時、それはただの『可能なこと』に成り下がる。

『てぇことは……だ』

この国を丸ごと皆守るには、ネズミの天辺にいなければならない。
ヒューズの指差す先、ロイの視線の先。
ネズミの天辺、キング・ブラッドレイ大総統。

『あそこはさぞかし気分がいいだろうな』

戦争が終わり、勝利に酔いしれる喧騒の中。
頂点に立つ男を……否、その先を、その眼に映す。

『イシュヴァールのような、あんな思いをするのは、我々だけで充分でしょう』

錬金術師が言う通り、この世の理が等価交換で表せるのなら、自分たちは屍を背負い血の河を渡ろう。
新しく生まれて来る世代が、幸福を享受出来るための代価として。








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