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「……どうして、急にそんなことを?」
「わかんない」
本当は、知らなくてもいいことなのかもしれない。
わざわざ、彼から聞き出す必要なんて無い。
それでも頼むのは、真理を追い求める錬金術師ゆえの性かもしれない。
(ううん、違う)
「あたしは、無知でいたくないだけなんだ」
何かがあったらしいイシュヴァール内乱。
それが人造人間たちの手によって引き起こされたものだと言うなら、人柱と呼ばれる自分も、無関係でいることはきっと出来なくなる。
それなのに、何も知りません、では笑い事にもなりはしない。
(残酷だよね、あたし)
『知』を求めて、兄の傷を抉るのだ。
自分の我儘で、大切な人を傷付けるのだ。
(それがわかってて『やっぱりいい』と言えないあたしは、本当に酷い奴だ)
「……主観でしか語れないが」
手にしていたカップを置き、重々しくではあったが、漸くロイが口を開いた。
罪の無い子供が撃ち殺されたことにより、始まった内乱。
七年もの間イシュヴァールとの敵対関係が続き、ブラッドレイが『大総統令三〇六六号』に署名したことにより、国家錬金術師を投入した殲滅戦が開始された。
仲間たちが殺し殺される中、ロイは兵器だ化物だと言われながらも、多くの命を焼いた。
『本当にイシュヴァール人最後の一人を殺すまで続ける気かねぇ?』
士官学校時代以来、久々に会ったヒューズと語った、この殲滅戦に対する疑問。
反乱を抑えるためだけが目的だとすれば、リスクが大きすぎる。
イシュヴァールにはたいした資源も、これと言った商業的価値も無いのだ。
殲滅戦を仕掛けるまでの軍備を浪費させておき、得られるのが『東部の安寧』のみか?
西も南も一触即発な状況だというのに、何故そこまでする必要があるのか。
『お久しぶりです』
その戦場で、ホークアイと再会した。
ロイの錬金術の師を父に持つ彼女は、その頃まだ士官学校生だったが、その狙撃手としての腕の良さ故に、ズルズルと戦地の奥深くまで引っ張られて行ってしまった。
『人に幸福をもたらすべき錬金術が、何故人殺しに使われているのですか』
錬金術の大いなる力は、多くの人々に幸福をもたらすものだ。
父の言葉を信じていた。
『国民を守るべき軍人が、何故国民を殺しているのですか』
なのに、どうしてこんなことになってしまったんだ?
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